退職金の非課税上限はいくら?2024年改正と計算方法を徹底解説

私はFPとして13年、退職金まわりの相談を受けてきました。正直に言うと、ここを誤解して必要な申告書を出し忘れ、20.42%も源泉徴収された人を何人も見ています。
この記事では、控除額の計算式、勤続年数別の目安、2024年・令和7年度の税制改正の影響、iDeCo併給や確定申告の要否まで、受け取る前に確認すべきことを順に整理します。
退職金は上限まで非課税になる仕組みとは

「退職金 非課税 上限」と検索したとき、多くの人が探しているのは、この退職所得控除額のことです。退職金がこの控除額以下なら、原則として税金はかかりません。国税庁が明記しています。
退職金にかかる税金の種類(所得税・住民税・復興特別所得税)
退職金にかかる税金は3つ。所得税、住民税、そして復興特別所得税です。
このうち復興特別所得税は、所得税額に2.1%を上乗せするもの。住民税の税率は原則10%です。
ただし、いずれも退職金の全額にかかるわけではありません。控除と2分の1課税を通したあとの「退職所得」に対してかかります。ここが大事なところです。
退職所得控除が非課税枠になる理由
なぜ退職金には大きな非課税枠があるのか。退職金は長年の勤労に対する後払いの性格を持ち、老後の生活資金になる。だから税負担を軽くする配慮がされています。
退職所得は他の所得と合算しない「分離課税」で扱われます。給与やほかの所得と切り離して計算されるため、税率が跳ね上がりにくいのです。
退職所得控除額より退職金が少ないと非課税になるケース
退職金が控除額以下なら、退職所得はゼロ。税金はかかりません。
たとえば勤続30年なら控除額は1,500万円です。計算式は800万円+70万円×10年=1,500万円。退職金が1,500万円以下なら、原則として非課税になります。
中小企業や勤続年数が長い方だと、控除額のほうが退職金を上回るケースは珍しくありません。私の相談でも「結局、税金ゼロでした」という方は一定数います。
退職金の非課税枠(退職所得控除額)の計算方法
非課税枠の正体は退職所得控除額です。計算式は勤続20年を境に2段階。まずここを押さえれば、自分の上限がすぐ出せます。

勤続年数20年以下と20年超の計算式
| 勤続年数 | 控除額の計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
勤続10年なら40万円×10年=400万円。勤続25年なら800万円+70万円×5年=1,150万円。シンプルです。
勤続2年など短い場合でも、最低80万円は保証されます。
勤続年数の端数は1年未満を切り上げる具体例
見落としやすいのが端数の扱い。勤続年数に1年未満の端数があるときは、切り上げて1年とします。
たとえば勤続20年1か月。これは21年として計算します。控除額は800万円+70万円×1年=870万円。
わずか1か月でも丸ごと1年に切り上がる。退職日を月初にずらすだけで控除額が70万円増えることもあります。地味ですが、効きます。
障害が原因で退職した場合の100万円加算
障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、上の計算で出した控除額に100万円が加算されます。
勤続30年で通常1,500万円のところ、この加算があれば1,600万円。該当する場合は申告書に記載が必要なので、見落とさないでください。
退職金にかかる税額の具体的な計算とシミュレーション
控除額を超えた分にだけ税金がかかります。しかも、その超過分はさらに2分の1にしてから課税。退職所得への優遇の核心がここです。

退職所得は2分の1課税になる基本ルール
退職所得の計算式はこうです。
退職所得 =(退職金 - 退職所得控除額)× 1/2
この退職所得に対して、所得税額は(退職所得×所得税率-速算控除)×102.1%、住民税額は退職所得×10%で計算します。102.1%は復興特別所得税の上乗せ分です。
勤続年数別・退職金額別の手取り早見の考え方
まず控除額を出し、退職金がそれを超えるかを見る。超えていなければ税金ゼロ、手取りは満額です。考え方を表にしました。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | この額まで非課税の目安 |
|---|---|---|
| 10年 | 400万円 | 400万円 |
| 20年 | 800万円 | 800万円 |
| 25年 | 1,150万円 | 1,150万円 |
| 30年 | 1,500万円 | 1,500万円 |
| 35年 | 1,850万円 | 1,850万円 |
勤続30年で退職金1,500万円なら、ぴったり非課税ライン。これを1円でも超えた分にだけ、2分の1課税が始まると考えてください。
勤続5年以下の役員等に対する2分の1課税不適用の特例
ただし、2分の1課税が使えない人がいます。勤続5年以下の役員等が受け取る退職金(特定役員退職手当等)です。
この場合、控除後の金額をそのまま退職所得として扱い、2分の1にできません。短期で役員を退任して高額の退職金を受け取るケースでは、税負担が一気に重くなります。役員の方は要注意です。
「退職所得の受給に関する申告書」と確定申告の要否

私が相談で一番強く言うのが、この申告書を必ず出すこと。たった1枚の差で、源泉徴収の額が大きく変わります。
申告書を出した場合と出さない場合の源泉徴収の違い
申告書を出していないと、退職金等の支払額に対して一律20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。控除も2分の1課税も反映されません。
具体例で見ます。勤続30年・退職金1,500万円の人。申告書を出していれば本来は非課税。ところが出し忘れると、1,500万円×20.42%=約306万円が天引きされてしまいます。
取り戻すには自分で確定申告が必要です。出すだけでこの手間が消える。だから「とにかく出してください」と伝えています。
確定申告が必要になる場合
申告書を出し忘れて20.42%を源泉徴収された場合は、払い過ぎを取り戻すために確定申告をします。
また、退職した年に医療費控除や住宅ローン控除など、ほかの控除を使いたい場合も申告で精算できます。
確定申告が不要な場合
申告書を勤務先に提出していれば、退職金にかかる税金は適正な額が源泉徴収され、原則として確定申告は不要です。
会社側が控除も2分の1課税も計算してくれる。これが申告書を出す最大のメリットです。
iDeCo一時金と退職金を併給するときの非課税枠の調整
ここを知らずに損をする人が、近年とても増えています。iDeCoの一時金も退職所得として扱われ、退職金と控除枠を共有するからです。

退職所得が複数あるときに控除額が調整される理由
退職金とiDeCo一時金を別々の年に受け取っても、それぞれで満額の控除を使えるわけではありません。受け取る順番とタイミングによって、控除額が調整されます。
控除枠を二重取りさせない仕組み、と理解すると分かりやすいです。
19年ルール・5年ルールの考え方
先にiDeCo一時金を受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、原則として前年以前19年以内にiDeCoを受けていると、勤続年数の重複期間が調整されます。これがいわゆる19年ルールです。
逆に先に退職金を受け取ってからiDeCoを受け取る場合は、前年以前5年以内かどうかで調整の有無が分かれます。これが5年ルール。
私の実感では、退職金を先に受け取り、5年超あけてからiDeCoを受け取る順番が、控除をフルに使いやすい。ただし制度の細かい条件があるため、受け取り年が近い方は事前にシミュレーションをおすすめします。
一時金で受け取る場合と年金形式で受け取る場合の税負担比較
iDeCoは一時金(退職所得)と年金形式(雑所得・公的年金等控除の対象)を選べます。
一時金は退職所得控除と2分の1課税が使え、税負担が軽くなりやすい。一方、年金形式は公的年金と合算され、受け取り時期によっては税・社会保険料の負担が増えることもあります。どちらが得かは退職所得控除の残り枠次第です。
2024年・令和7年度税制改正と退職金非課税枠への影響
「2024年で何が変わったのか」を気にする方が多いので、ここは正直に書きます。退職所得控除の基本ルール(40万円・70万円・20年区切り)そのものは、2024年時点で維持されています。

改正の主な変更点
近年の議論で焦点になっているのは、iDeCoを先に受け取ってから退職金を受け取る際の調整ルール(前述の5年・19年の取り扱い)です。受け取り順による有利・不利を是正する方向で見直しが進められています。
確定した数値の変更点で、出典のあるものに限って言えば、退職所得控除の計算式の根幹は変わっていません。ここは断言します。
改正がいつから適用されるか
税制改正は通常、その年度の法改正を経て翌年以降に適用されます。受け取り予定が改正の境目に重なりそうな方は、適用開始の時期を勤務先や税務署で必ず確認してください。
改正が退職金の手取りに与える影響
影響が大きいのは、退職金とiDeCoの両方をもらう人です。受け取る順番ひとつで控除の使える額が変わり、手取りが数十万円単位で動くこともあります。
会社の退職金一本の人は、控除の基本ルールが維持されている以上、過度に心配する必要はありません。
意外と見落とす退職金の落とし穴と受け取り方の最適化

税金の話に集中しすぎて、ほかの論点を見落とす人が多い。社会保険料、住民税の徴収方法、会社倒産時の扱い。実務でよく聞かれる順に整理します。
退職金に社会保険料はかかるのか
結論から言うと、一時金で受け取る退職金そのものには、健康保険料や厚生年金保険料はかかりません。これは給与とは性格が違うためです。
ただしiDeCoや企業年金を年金形式で受け取る場合は、公的年金等と合算され、国民健康保険料や介護保険料の算定に影響することがあります。一時金が社会保険料の面でも有利、というのはこの点です。
会社倒産・未払い退職金の税務上の扱い
会社が倒産して退職金が未払いになった場合、実際に受け取った時点で退職所得として課税されるのが基本です。受け取れなかった分には課税されません。
未払賃金立替払制度などで一部が補填されるケースもあり、その性格によって扱いが変わります。該当しそうな方は、受け取った書類を持って税務署や専門家に確認してください。
住民税の分離課税・特別徴収のしくみ
退職所得に対する住民税は、ほかの所得と分けて計算する分離課税。税率は原則10%です。
しかも退職金を支払う会社が、その場で計算して天引きする「特別徴収」が行われます。つまり退職金の住民税は受け取り時に精算済み。翌年にまとめて請求が来るわけではありません。ここは安心していい部分です。
受け取り方を工夫した節税のポイント
私が相談で必ず確認するポイントを3つに絞ります。
| ポイント | 具体的な行動 |
|---|---|
| 申告書を出す | 「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先へ必ず提出し、20.42%の源泉徴収を避ける |
| 勤続年数の端数を活かす | 退職日を調整し、1年未満の端数を切り上げて控除額を増やせないか検討する |
| iDeCoとの受け取り順 | 退職金とiDeCoの受け取り年をずらし、控除枠を二重で使えるよう順番を設計する |
このうち効果が一番確実なのは申告書の提出。次がiDeCoとの受け取り順の設計です。端数の調整は会社都合で動かせない場合もあるので、できればやる、くらいの位置づけです。
退職金 非課税 上限に関するよくある質問
相談現場で実際によく受ける質問を、3つに絞って答えます。

よくある質問
最後にひと言。退職金の税金で損をする人の大半は、知識不足ではなく「申告書の出し忘れ」です。受け取る前の今、その1枚を勤務先に確認する。これだけで、ほとんどの落とし穴は避けられます。
