退職金の税金はいくら?計算方法と手取り額シミュレーション

むしろ多くのケースで、退職所得控除を引いた残りの「半分」にしか所得税・住民税がかかりません。勤続が長い人ほど有利です。
この記事では、所得税と住民税の計算方法、勤続年数別の手取りシミュレーション、一時金と年金どちらが得か、そして申告書の出し忘れで20.42%課税される落とし穴まで、私が実務で確認してきた範囲で具体的に解説します。
書き手は元銀行員・現FPの榎本です。国税庁の通達を直接確認しながら、相談現場で実際に使える話だけに絞ります。
退職金にかかる税金とは?仕組みをわかりやすく解説

退職金は原則として「退職所得」という区分で、給与など他の所得とは分けて課税されます。これを分離課税と呼びます。
退職金には所得税と住民税がかかる
退職一時金には、所得税・復興特別所得税・住民税の3つがかかります。
復興特別所得税は所得税額の2.1%。2037年までの時限的な上乗せです。実際の負担はこの3つを合算した額になります。
退職所得控除があるため税負担は軽い
退職所得には「退職所得控除」という大きな控除があります。勤続年数が長いほど控除額が膨らむ仕組みです。
しかもこの控除を引いたあと、残りをさらに2分の1にしてから税率をかけます。給与と比べて、同じ金額でも税金がぐっと軽くなる理由がここにあります。
正直、退職金がここまで優遇されている所得は他にほとんどありません。長く勤めた人へのご褒美のような設計です。
退職金が退職所得控除額より少ないときは非課税
退職金の額が退職所得控除額以下なら、課税対象の退職所得はゼロ。所得税も住民税もかかりません。
たとえば勤続20年の控除額は800万円。退職金が800万円以下なら、税金は1円もかからない計算です。短めの勤続でも、控除の枠内に収まれば全額が手元に残ります。
退職金の税金の計算方法と早見表
計算の柱は2つだけ。まず退職所得控除額を出し、次に「(退職金-控除額)×1/2」で課税対象の退職所得を求めます。

退職所得控除額の計算方法
退職所得控除額は勤続年数で決まります。20年を境に1年あたりの単価が変わります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額の計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えた部分は1年あたり70万円。この「20年で単価が上がる」設計が、長く勤めた人を優遇しています。
課税対象となる退職所得の求め方
課税対象の退職所得は「(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2」で計算します。
この1/2を掛けるところが効きます。たとえば控除を引いた残りが600万円でも、課税されるのは300万円分だけ。所得税の累進税率も低い段に収まりやすくなります。
所得税の計算方法
求めた退職所得に所得税の速算表を当てはめ、所得税額を出します。さらにその所得税額に2.1%の復興特別所得税を上乗せします。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 退職金 − 退職所得控除額 |
| 2 | ×1/2 → 課税退職所得金額 |
| 3 | 所得税の速算表で所得税額を算出 |
| 4 | 所得税額 ×2.1% を復興特別所得税として加算 |
住民税の計算方法
住民税も同じ課税退職所得金額に対してかかります。税率は所得割で一律10%(市区町村6%・都道府県4%)です。
住民税は退職金から源泉徴収(特別徴収)され、その場で完結します。後から請求が来るわけではないので、ここは安心していい部分です。
退職金の税金を計算シミュレーションしてみよう
言葉だけでは掴みにくいので、実際の数字で追います。退職所得控除の計算式と「×1/2」を使い、私が手計算した例です。

勤続年数10年・退職金900万円の場合
勤続10年の退職所得控除額は「40万円×10年=400万円」。
課税退職所得は(900万円 − 400万円)× 1/2 = 250万円。ここに所得税の速算表(250万円なら税率10%・控除9万7,500円)を当てると、所得税は約15万2,500円。復興特別所得税2.1%を足すと約15万5,700円です。
住民税は250万円×10%=25万円。合わせて税金はおよそ40万円台、手取りは850万円以上残る計算になります。900万円もらって税の取り分がこの程度。控除と1/2の威力がよく分かります。
勤続年数25年・退職金2300万円の場合
勤続25年は20年を超えるので、控除額は「800万円 + 70万円×(25 − 20)=1,150万円」。
課税退職所得は(2,300万円 − 1,150万円)× 1/2 = 575万円。所得税は速算表(575万円なら税率20%・控除42万7,500円)で約72万2,500円、復興特別所得税を足して約73万7,700円。住民税は575万円×10%=57万5,000円です。
税の合計は約131万円。2,300万円に対して6%弱の負担にとどまります。同じ金額を給与でもらっていたら、税率の段がまるで違っていたはずです。
勤続年数の端数は1日でも切り上げて数える
勤続年数に1年未満の端数があるときは、1日でも1年に切り上げます。
たとえば勤続10年1ヵ月は「11年」で計算します。これだけで控除額が40万円増えるので、退職日の設定で得をすることがあります。月末ぎりぎりの退職は、ここを意識すると効きます。
退職金の受け取り方による税金の違い(一時金と年金)

退職金は受け取り方で課税の仕組みが変わります。一時金なら退職所得、年金なら雑所得(公的年金等控除の対象)として扱われます。
一時金として一括で受け取る場合
一括で受け取ると退職所得になり、退職所得控除と1/2課税のフルメリットを受けられます。
税負担を最小化したいなら、基本は一時金が有利です。私が相談で最初に確認するのも、まず控除枠に収まるかどうかです。
年金として分割で受け取る場合
年金形式で受け取ると、運用が続くぶん受取総額が増えることがあります。一方で毎年の受取は雑所得となり、公的年金等控除を超えた部分は他の年金収入と合算して課税されます。
見落としがちなのは、年金受取が翌年以降の社会保険料の算定にも影響する点です。手取りで比べるときは、税金だけでなく国民健康保険料まで含めて見る必要があります。
どちらが得かは状況による
一時金と年金、どちらが得かは退職金額・他の年金収入・運用利率で変わります。傾向だけ整理します。
| 項目 | 一時金 | 年金 |
|---|---|---|
| 所得区分 | 退職所得 | 雑所得(公的年金等) |
| 主な控除 | 退職所得控除+1/2課税 | 公的年金等控除 |
| 受取総額 | 運用なしで確定 | 運用継続で増える可能性 |
| 社会保険料への影響 | 受取年のみ | 受取期間中ずっと |
私の実感では、退職所得控除の枠に収まる人は一時金で受け取り切るのがシンプルで強い。控除を使い切れないほど退職金が大きい人だけ、年金との組み合わせを検討する価値があります。
iDeCoや確定拠出年金と重複する控除の調整ルール
iDeCoや企業型確定拠出年金(DC)を一時金で受け取ると、これも退職所得になります。会社の退職金と受取時期が近いと、退職所得控除を重複して使えません。
ここに「19年ルール」があります。退職金を先に受け取った場合、その後19年以内にiDeCoを一時金で受け取ると、控除の計算で勤続期間が重複調整され、控除枠が削られます。
順番を逆にして、iDeCoを先に受け取った場合は「5年ルール」。5年あければ、それぞれの控除をフルに使える可能性が出ます。受取時期を1年ずらすだけで税額が数十万円変わることもあるので、ここは事前計算が要です。
退職金の税金で損しないための注意点と手続き
制度が有利でも、手続きを誤ると税金で損をします。とくに申告書の提出は絶対に外せません。

退職所得の受給に関する申告書を出さないと一律20.42%課税
「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出していれば、退職所得控除を反映した正しい税額が源泉徴収され、原則として確定申告は不要です。
これを出さないと、退職金の支払額そのものに一律20.42%が源泉徴収されます。控除も1/2も反映されないので、本来より多く取られる。
取られすぎた分は確定申告で取り戻せますが、手間も時間もかかります。退職時にこの申告書が配られたら、必ずその場で出す。これだけは忘れないでください。
確定申告が必要なケース・不要なケース
申告書を出していれば源泉徴収で完結し、確定申告は基本的に不要です。
一方で、申告書を出さず20.42%を引かれた人は、確定申告で精算すると還付が受けられます。年の途中で退職して年末調整を受けていない人や、医療費控除・ふるさと納税を使う人も、確定申告したほうが得になることがあります。
退職後の住民税の支払い方法とスケジュール
退職所得分の住民税は退職金から差し引かれるので、追加の支払いはありません。注意したいのは、退職金とは別の「前年の給与」にかかる住民税です。
住民税は前年所得をもとに翌年課税されるため、退職後に納付が回ってきます。在職中は給与天引き(特別徴収)でしたが、退職すると自分で納める普通徴収に切り替わります。
退職時期によっては、残りを最後の給与から一括徴収する方法も選べます。無職期間に納付書が届いて慌てないよう、退職前に会社へ徴収方法を確認しておくと安心です。
退職金が社会保険料に与える影響
退職金(退職所得)は分離課税のため、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料の算定基礎には含まれません。一時金で受け取るかぎり、保険料が跳ね上がる心配は基本的にありません。
逆に、年金形式で受け取った退職金は雑所得として保険料の計算に乗ります。受け取り方を選ぶときは、ここも判断材料に入れてください。
知っておきたい退職金税制の改正と特例(独自解説)
ここからは競合記事で薄くなりがちな論点を、相談現場の視点で厚めに書きます。改正の方向と、自分が特例に当たるかどうかの確認が中心です。

退職所得控除の見直し(勤続20年区切りの優遇縮小)の最新動向と影響額
政府の税制改正の議論では、勤続20年を境に控除単価が上がる現在の仕組み(20年超は1年70万円)を見直す案が継続的に取り上げられています。転職が当たり前になった働き方に合わせ、長期勤続だけを優遇する設計を改める狙いです。
正直に言うと、現時点で確定した施行内容や時期は決まっていません。具体的な数値は確定後でないと誤情報になるため、ここでは触れません。
私の見立てとしては、仮に20年超の上乗せが縮小されれば、勤続が長く退職金が大きい人ほど影響を受けます。受取時期の前倒しが選べる人は、改正動向を見ながら検討する価値があると考えています。
役員退職金で2分の1課税が使えないケース
退職所得の「×1/2」は強力ですが、役員等で勤続年数5年以下の人には適用されません。短期間在任した役員への高額退職金で、税逃れを防ぐための例外です。
この場合、退職金から控除額を引いた全額が課税対象になります。1/2が効かないぶん税負担は重くなるので、短期就任の役員退職金は事前に税額を試算しておくべきです。
障害が原因で退職した場合の100万円加算の特例
障害者になったことが直接の原因で退職した場合、退職所得控除額に100万円が加算されます。通常の控除額にそのまま上乗せされる優遇です。
見落とされやすい特例なので、傷病が理由で退職する人は、申告書の記載と勤務先への申し出を忘れないでください。
受取時期の調整など節税の考え方
退職金の節税は、奇策ではなく時期の調整が本筋です。勤続年数の端数を切り上げられる退職日を選ぶ、iDeCoと退職金の受取年をずらして控除の重複を避ける――この2つで十分効果が出ます。
私なら、退職前に「控除枠にいくら余裕があるか」を必ず計算します。枠が余っているなら一時金で受け切る。枠を超えるなら、超過分だけ年金やiDeCoの時期分散で受ける。順番はこのシンプルさで判断します。
退職金の税金に関するよくある質問

相談でよく受ける質問を、結論先出しでまとめます。
よくある質問
最後にひとつだけ。退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を出す――まずこれを確実にやってください。これを忘れると20.42%課税という一番もったいない損になります。手取りの試算は、その上で落ち着いてやれば十分間に合います。
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 伊予銀行「退職金にかかる税金はどれくらい?」
- 国税庁「退職金と税」
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(退職所得の計算式)
- 三菱UFJ銀行コラム(退職金の受け取り方)
- 北國銀行コラム(退職金の受け取り方)
- auカブコム(KDDIアセットマネジメント)iDeCoコラム
- 国税庁「退職金と税」(申告書と源泉徴収)
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁「退職金と税」
- 伊予銀行「退職金にかかる税金はどれくらい?」
- 三菱UFJ銀行コラム(退職金の受け取り方)
- 北國銀行コラム(退職金の受け取り方)
- auカブコム(KDDIアセットマネジメント)iDeCoコラム
