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退職金控除・非課税のしくみ

退職所得控除とは?計算方法と手取りを増やす5つのポイント

榎本 達也 / 更新:2026-06-24
退職所得控除とは?計算方法と手取りを増やす5つのポイント
退職金にどれくらい税金がかかるのか、不安なまま受け取り方を決めてしまう方を、私は相談の現場で何人も見てきました。結論を先に言うと、退職金は「退職所得控除」のおかげで、ほかの収入よりずっと税金が軽くなります。

勤続20年で控除額は800万円、30年なら1,500万円。これより退職金が少なければ、所得税も住民税もかかりません。

この記事では、控除額の計算式と勤続年数別の早見表、iDeCoとの重複調整(5年・19年ルール)、確定申告の要否と申告書の書き方まで、私が実務で確認してきた順序で整理します。元銀行員・現FPの榎本が書いています。

退職所得控除とは?まず結論からわかりやすく解説

退職所得控除で大きな差がつく!退職金の受け取りタイミングで損しない方法を教えます。
退職所得控除で大きな差がつく!退職金の受け取りタイミングで損しない方法を教えます。

退職所得控除は、退職金を課税対象として計算する前に、まるごと差し引ける金額です。国税庁の説明では、退職所得は原則「(収入金額−退職所得控除額)×1/2」で求めます。

つまり控除を引いて、さらに半分にする。この二段構えが、退職金の税金を軽くする正体です。

退職所得控除の意味と役割

長年働いて受け取る退職金に、給料と同じ重い税金をかけるのは酷です。だから国は、勤続年数が長いほど控除額が増える仕組みを用意しています。

退職金が退職所得控除額以下なら、退職所得は0円。税金は一切かかりません。これは見落とされがちですが、かなり大きな話です。

対象となる税目(所得税・住民税・復興特別所得税)

退職所得にかかるのは、所得税・復興特別所得税・住民税の3つ。住民税は退職所得に対して10%という扱いです。

いずれも「分離課税」で、給与や事業の所得とは合算しません。退職金だけを切り離して計算するので、ほかの所得が高くても税率が跳ね上がることはない。

退職金の税金が軽くなる理由

理由は2つ。控除額が大きいこと、そして控除後にさらに1/2を掛けること。この組み合わせで、退職金の課税所得は驚くほど小さくなります。

実際に相談で試算すると、勤続30年・退職金1,500万円なら税金ゼロ、というケースは珍しくありません。

退職所得控除額の計算方法と計算式

控除額は勤続年数だけで決まります。覚えるのは2本の式だけ。

退職所得控除額の計算方法と計算式
退職所得控除額の計算式
勤続年数計算式
20年以下40万円×勤続年数(最低80万円)
20年超800万円+70万円×(勤続年数−20年)

勤続年数20年以下・20年超の計算式

勤続10年なら、40万円×10年=400万円。勤続25年なら、800万円+70万円×5年=1,150万円です。

20年を境に、1年あたりの控除が40万円から70万円へ増えます。長く勤めた人ほど優遇される設計です。

勤続年数の数え方と「切り上げ」ルール

ここが意外と効きます。勤続年数に1年未満の端数があれば、1日でも1年に切り上げて計算します。

たとえば勤続20年1か月なら、21年として扱う。その1か月で控除額が70万円増える計算になります。退職日を月初にずらすだけで得をすることがあるので、私は退職時期の相談を受けたら必ず確認します。

退職所得と税額の計算手順

流れはシンプルです。①控除額を出す ②(退職金−控除額)×1/2で退職所得を出す ③所得税の税率表を当てる ④住民税10%を加える。

退職金が控除額以下なら②がマイナスになるので、退職所得は0円。そこで計算は終わります。

勤続年数別の早見表

控除額だけを勤続年数ごとにまとめました。自分の年数を当てはめて、退職金がこの金額以下なら税金はかかりません。

勤続年数別の退職所得控除額(早見表)
切り上げ後の年数で計算。控除額以下の退職金には課税されない。
勤続年数退職所得控除額
5年200万円
10年400万円
15年600万円
20年800万円
25年1,150万円
30年1,500万円
35年1,850万円
40年2,200万円

知っておきたい退職所得控除の特例ルール

基本式だけで判断すると損をする、あるいは想定外の税金が出るケースがあります。ここは慎重に見てください。

知っておきたい退職所得控除の特例ルール

障害者となって退職した場合の100万円加算

障害を直接の原因として退職した場合、通常の退職所得控除額に100万円が加算されます。

勤続20年で退職所得控除は本来800万円ですが、障害が原因なら900万円。この特例は申告漏れが起きやすいので、該当しそうなら勤務先に必ず伝えてください。

勤続5年以下の役員等・短期退職手当等の2分の1課税不適用

退職金の魅力である「×1/2」が、使えない場合があります。

勤続5年以下の役員等が受け取る退職金(特定役員退職手当等)は、1/2課税の対象外。控除は引けますが、半分にする処理がありません。

さらに役員以外でも、勤続5年以下の「短期退職手当等」では、控除後の金額が300万円を超える部分について1/2が使えません。短期で大きな退職金を受け取る人は、ここで税負担が重くなる点を頭に入れておくべきです。

複数の退職金を受け取った場合の調整計算

同じ年に2か所から退職金を受け取ると、退職所得控除は両方分を別々に満額使えるわけではありません。

勤続期間が重なる部分は、二重に控除できないよう調整されます。転職や子会社からの退職金が重なる人は、勤続期間の重複に注意してください。

前年以前4年内(確定拠出年金は19年内)の重複期間の調整

これがいわゆる重複期間の調整ルールです。前年以前4年内に他の退職金を受け取っていると、その勤続期間と重なる部分の控除が削られます。

確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の一時金は、この期間が19年内に延びます。後述するiDeCoの受取順序が、控除額を大きく左右する理由はここにあります。

iDeCo・企業型DCと組み合わせるときの注意点

【控除額がすごい】退職所得控除の基本について【確定拠出年金にも使えます】
【控除額がすごい】退職所得控除の基本について【確定拠出年金にも使えます】

退職金とiDeCoの両方がある人は、受け取る順番と時期だけで手取りが何十万円も変わります。私が相談で最も時間をかけるのがここです。

一時金受取と退職金の合算判定

iDeCoや企業型DCを一時金で受け取ると、会社の退職金と同じ「退職所得」として扱われます。

つまり退職所得控除を取り合う関係になる。同じ年や近い年に両方を受け取ると、重複調整で控除が目減りします。

「5年ルール・19年ルール」の具体例

前年以前4年内に他の退職金があると勤続期間の重複が調整される、というのが基本です。iDeCoの一時金については、この調整の対象期間が前年以前19年内まで延びます。

例として、60歳でiDeCoを一時金受取し、その後に会社を退職して退職金を受け取る場合。間隔が近いと、iDeCo分とDC分で勤続期間が重なり、控除が満額使えません。受取の前後関係と年数の空け方で、結果が変わります。

受取時期を最適化する考え方

正直に言うと、最適解は人によって違います。それでも基本の考え方はあります。

私の整理では、iDeCoを先に一時金で受け取り、会社の退職金とは年をしっかり空ける。あるいはiDeCoを年金受取にして退職所得を分散させる。どちらが得かは退職金額と勤続年数で逆転するので、必ず両パターンを試算してから決めてください。

退職金に確定申告は必要?申告書の書き方

確定申告が要るかどうかは、たった1枚の書類を出したかで決まります。「退職所得の受給に関する申告書」です。

退職金に確定申告は必要?申告書の書き方

「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合

この申告書を勤務先に提出していれば、退職所得控除が適用され、勤務先が正しい税額を源泉徴収して精算してくれます。

この場合、原則として退職金について自分で確定申告をする必要はありません。会社に渡す書類なので、退職時に案内されたら必ず記入して提出してください。

提出しなかった場合と還付の受け方

提出しないと、退職金等の支払額に対して一律20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収されます。控除が反映されないため、本来より多く引かれることがほとんどです。

この場合は、自分で確定申告をすれば払い過ぎた分の還付を受けられます。申告書の出し忘れは、確定申告で取り戻せる。ここは覚えておいてください。

源泉徴収票の見方と確定申告での記載

退職時には「退職所得の源泉徴収票」が交付されます。支払金額、源泉徴収税額、勤続年数、退職所得控除額が並んでいます。

確定申告で還付を受けるときは、この源泉徴収票の数字を申告書の「退職所得」欄に転記します。手元に届いたら、勤続年数と控除額が早見表と合っているか、まず確認してください。

ケース別に見る退職所得控除の落とし穴と試算例

制度を一通り知っても、自分のケースで判断を誤ると損をします。相談でよく出る落とし穴を挙げます。

ケース別に見る退職所得控除の落とし穴と試算例

早期退職優遇・割増退職金を受け取る場合の注意

早期退職で割増退職金を受け取ると、退職金額が一気に増えます。控除額は変わらないので、控除を超えた部分に課税が発生しやすい。

勤続年数が比較的短いまま割増を受け取ると、退職所得控除では吸収しきれないことがあります。割増額の通知が来たら、控除額と突き合わせて課税の有無を先に確認してください。

死亡退職金は相続税の対象になるケース

見落とされやすいのが死亡退職金です。本人の死亡後に遺族が受け取る退職金は、所得税ではなく相続税の対象になる場合があります。

この場合は退職所得控除ではなく、相続税の枠組みで考えます。退職所得の話と混同しないよう、税目が変わる点だけは押さえておいてください。

ふるさと納税の控除上限額への影響

退職所得は分離課税で、給与など他の所得と合算しません。

そのため、退職金を受け取った年でも、ふるさと納税の控除上限額の基礎となる総合課税の所得には基本的に乗りません。「退職金が入ったから上限が増える」と早合点しないことです。

退職金額別の手取りシミュレーション

勤続30年(退職所得控除1,500万円)を例に、退職金額ごとの課税の有無を整理しました。控除以下なら退職所得は0円です。

勤続30年の場合の退職所得(課税対象額)
退職所得控除1,500万円で計算。退職所得=(退職金−1,500万円)×1/2。実際の税額は所得税の税率と住民税10%で別途算出。
退職金額控除後退職所得(課税対象)
1,000万円0円以下0円(課税なし)
1,500万円0円0円(課税なし)
2,000万円500万円250万円
2,500万円1,000万円500万円
3,000万円1,500万円750万円

退職金が控除額を超えても、超えた分の半分しか課税されない。この緩衝があるから、退職金は税制上かなり有利です。

退職所得控除に関するよくある質問

これが結論です!5年ルールが消えた後に最もお得に退職金を受け取る方法について解説します!
これが結論です!5年ルールが消えた後に最もお得に退職金を受け取る方法について解説します!

相談でよく受ける質問を、要点だけ短くまとめます。

よくある質問

退職所得控除とは何ですか?
退職金を課税対象として計算する前に差し引ける金額です。勤続20年以下は40万円×勤続年数(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)で求めます。退職金がこの控除額以下なら、退職所得は0円となり税金はかかりません。
退職所得控除で費用や手数料はかかりますか?
退職所得控除そのものに費用や手数料はかかりません。税法上の制度なので、利用にあたって支払うお金はありません。控除を適用するために必要なのは「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先へ提出することだけです。
退職所得控除を受ける手続きの始め方は?
退職時に勤務先から渡される「退職所得の受給に関する申告書」に記入して提出すれば、控除が適用された税額で精算されます。提出しないと支払額の20.42%が源泉徴収されますが、その場合は自分で確定申告すれば払い過ぎ分の還付を受けられます。

最後に一言。退職金は一度きりの大きなお金です。受け取り方を決める前に、必ず勤続年数の切り上げとiDeCoとの受取順序だけは確認してください。ここを押さえるだけで、手取りは確実に変わります。

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榎本 達也

榎本 達也

2級ファイナンシャル・プランニング技能士 ・ 地方銀行での個人資産相談業務12年

元銀行員・現FPとして、退職金や年金まわりの税務を中心に相談業務と記事執筆を行っています。制度の条文や国税庁の通達を直接確認しながら、読者が実際に使える情報だけを届けることを心がけています。

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