退職金控除とは?計算方法と手取りを増やす5つのポイント

私はFPとして13年、銀行の窓口でも退職金の相談を数えきれないほど受けてきました。実際、勤続30年なら1,500万円までは退職所得がゼロ、つまり税金がかからないケースも珍しくありません。
この記事では、退職所得控除の計算式、勤続年数別の具体的なシミュレーション、短期退職や役員の特例、iDeCoとの調整、確定申告の要否までまとめました。自分の数字を当てはめながら読み進めてください。
退職金控除(退職所得控除)とは?まず結論

退職金控除とは、正式には「退職所得控除」のことです。退職金から差し引ける非課税の枠で、勤続年数に応じて金額が決まります。退職金がこの控除額以下なら、税金は一切かかりません。
退職所得控除のしくみと役割
退職金は「退職所得」として、給与や事業所得など他の所得とは合算せずに課税されます。これを分離課税と呼びます。長年の勤労に対する報償的な性格があるため、税制上はかなり手厚く守られています。
国税庁も、退職金は「長年の勤務に対する報償的給与」として一時に支払われる点を踏まえ、税負担が軽くなる配慮をしていると説明しています。
なぜ退職金は税金が軽くなるのか
理由は大きく3つあります。1つ目は分離課税で給与と合算されないこと。2つ目が勤続年数に応じた退職所得控除。そして3つ目が、控除後の金額をさらに「2分の1」にしてから課税する点です。
この三段構えのおかげで、同じ金額でもボーナスで受け取るより圧倒的に税金が安くなります。正直、これほど優遇されている所得は他にありません。
対象となる税金(所得税・住民税・復興特別所得税)
退職金にかかる税金は、所得税・住民税・復興特別所得税の3つです。復興特別所得税は所得税額の2.1%が上乗せされるもので、2037年まで続きます。
| 税目 | 内容 |
|---|---|
| 所得税 | 退職所得に超過累進税率を適用 |
| 復興特別所得税 | 所得税額の2.1%を上乗せ |
| 住民税 | 退職所得に対し原則10%(分離課税で天引き) |
退職所得控除額の計算方法と退職金の手取りの出し方
ここが本題です。退職所得控除額は勤続年数で決まり、20年を境に計算式が変わります。順を追って、控除額→課税対象の退職所得→税額の順で出していきます。

勤続年数による控除額の計算式(20年以下・20年超)
控除額の計算式は次のとおりです。20年を超えると1年あたりの控除が40万円から70万円に増える点が大きなポイントです。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
たとえば勤続20年なら40万円×20年=800万円。勤続40年なら800万円+70万円×20年=2,200万円が控除額になります。長く勤めた人ほど枠が大きく育つ仕組みです。
勤続年数のカウント方法と端数月の切り上げ
勤続年数は1年未満の端数を切り上げます。たとえば20年と1日でも21年として計算します。たった1日で控除が70万円増えるので、退職日のずらし方は意外とバカになりません。
私が相談を受けた中でも、退職予定日を月初に少しずらしただけで控除額が一段上がり、税額が数十万円変わったケースがありました。端数の扱いは必ず確認してください。
休職や育休の期間も、在籍していれば原則として勤続年数に含めます。実際の在籍期間で数えるのが基本です。
課税対象となる退職所得の計算(2分の1課税)
課税対象となる退職所得は、原則として次の式で求めます。
退職所得 =(収入金額 − 退職所得控除額)÷ 2
退職金が控除額以下なら退職所得はゼロ。この場合、所得税も住民税もかかりません。控除額を超えた部分だけが、しかも半分にされてから課税されます。
所得税・住民税の税額計算の手順
流れはこうです。まず退職所得控除額を計算し、退職金から引く。残りを2分の1にして課税退職所得を出す。そこに所得税の超過累進税率をかけ、さらに2.1%の復興特別所得税を上乗せします。
住民税は、課税退職所得に対して原則10%(道府県民税4%+市町村民税6%)です。住民税も分離課税で、退職時にまとめて天引きされます。
勤続年数別・金額別の具体的なシミュレーション
数式だけだとピンとこないので、実際の数字で計算してみます。下のケースは私が相談現場でよく使う典型例です。所得税率は課税退職所得に応じた超過累進税率を用いています。

勤続10年・退職金1000万円のケース
勤続10年の控除額は40万円×10年=400万円。退職金1,000万円から引くと600万円。これを2分の1にして、課税退職所得は300万円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職所得控除額 | 400万円 |
| 控除後の金額 | 600万円 |
| 課税退職所得(÷2) | 300万円 |
課税退職所得300万円に対し、所得税率10%・控除額97,500円を適用すると所得税は約20.25万円。これに復興特別所得税が乗り、住民税は300万円の10%で約30万円です。
勤続30年・退職金2000万円のケース
勤続30年の控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円。退職金2,000万円から引くと500万円。2分の1で課税退職所得は250万円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職所得控除額 | 1,500万円 |
| 控除後の金額 | 500万円 |
| 課税退職所得(÷2) | 250万円 |
控除額1,500万円までは無税。退職金2,000万円でも課税対象はわずか250万円です。長期勤続の優遇がいかに強力か、この数字を見れば実感できると思います。
障害者になり退職した場合の100万円加算の特例
障害者になったことが直接の原因で退職した場合、退職所得控除額に100万円が加算されます。たとえば勤続30年なら1,500万円+100万円=1,600万円が控除額です。
この加算は見落とされがちですが、確実に税負担を減らせる特例です。該当する場合は申告書にその旨を記載してください。
知らないと損する短期退職と役員退職の課税ルール

勤続年数が短い人と役員には、2分の1課税が制限される特別ルールがあります。ここを知らないと「思ったより税金が高い」となりがちです。
勤続5年以下の短期退職手当等(300万円超の2分の1課税廃止)
2022年(令和4年)分以降、勤続5年以下で役員以外の人が受け取る退職金は「短期退職手当等」とされ、控除後の金額のうち300万円を超える部分には2分の1課税が使えなくなりました。
つまり300万円までは従来どおり半分にできますが、それを超える部分は全額が課税対象です。短期間で高額の退職金を受け取る人は要注意です。
勤続5年以下の役員(特定役員退職手当等)の2分の1課税不適用
役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金は「特定役員退職手当等」と呼ばれ、こちらは300万円の枠すらなく、最初から2分の1課税が一切適用されません。
短期で就任・退任する役員は、退職金の税負担がかなり重くなります。役員退任を控えている方は、この点を前提に手取りを試算しておくべきです。
2024年度税制改正以降の退職所得課税見直しの動向
勤続20年を境に控除が増える今の仕組みは「長く同じ会社にいる人ほど得」で、転職の多い働き方に合わないという議論が続いています。政府の税制改正論議でも見直しが俎上に上がっています。
ただし、控除の計算式自体を変える改正は現時点で確定していません。確定していない数字には触れず、改正が決まり次第この記事も更新します。
iDeCo・確定拠出年金と複数の退職金を受け取るときの調整
ここが一番ややこしく、相談でも最も間違いが多いところです。退職金とiDeCoの一時金を別々の年に受け取れば、それぞれフルで控除が使えると思っている人が多い。実は受取時期によって控除が重複排除されます。

同一年内に複数の退職金を受け取る場合の控除額調整
同じ年に複数の退職金を受け取った場合は、収入金額を合算したうえで、勤続期間の重複分を除いた退職所得控除額を一度だけ計算します。控除は退職金ごとに二重に使えません。
前年以前の退職金との勤続期間の重複排除
前年以前に別の退職金を受け取っている場合、勤続期間が重なっている部分は調整され、控除額から差し引かれます。「前にも退職金をもらったから、今回も満額の控除」とはいかないわけです。
iDeCo一時金の「19年ルール」「5年ルール」と受取時期の最適化
iDeCoや確定拠出年金の一時金を退職金と別の年に受け取る場合、受取の間隔によって控除の重複調整が変わります。会社の退職金を先に、iDeCoを後にするか、その逆かで税額が大きく動きます。
この調整ルールが、2026年1月から見直されます。従来は前後一定期間の調整に「5年」が用いられていましたが、改正後は「10年」を空ける必要が出てくると解説されています。
正直に言うと、ここは自己流の判断が一番危険な領域です。退職金とiDeCoの両方がある方は、受取年を決める前にFPか税理士に試算を頼んでほしい。私自身、ここの組み方一つで手取りが百万円単位で変わるのを何度も見てきました。
退職金の受け取り方と確定申告の要否
退職金は受け取り方で税金の枠組みが変わります。一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除。どちらを使うかで手取りが変わるので、選べる場合は試算が欠かせません。

「一時金」「年金」「併用」それぞれの受け取り方と税金の違い
一括で受け取る「一時金」は退職所得控除と2分の1課税が使えます。分割で受け取る「年金」は雑所得として公的年金等控除の対象になり、他の年金と合算して課税されます。両方を組み合わせる「併用」も選べます。
| 受け取り方 | 適用される控除 | 課税の特徴 |
|---|---|---|
| 一時金(一括) | 退職所得控除 | 分離課税・2分の1課税で軽い |
| 年金(分割) | 公的年金等控除 | 雑所得として他の年金と合算 |
| 併用 | 両方 | 一時金分と年金分を分けて課税 |
私の経験では、退職所得控除の枠に収まる範囲は一時金で受け取り、超える部分を年金にする併用が手取り的に有利になるケースが多いです。ただし年金受取の運用利率や他の年金額によって逆転するので一概には言えません。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合・しない場合
勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、退職所得控除が適用され、適正額が源泉徴収されます。この場合、原則として確定申告は不要です。受給時に課税関係が完結します。
逆にこの申告書を出さないと、退職所得控除が一切使えず、退職金の支払額に対して一律20.42%が源泉徴収されます。これはかなり重い。出し忘れは絶対に避けてください。
源泉徴収のしくみと源泉徴収票の見方
退職金は支払い時に税額が天引きされ、「退職所得の源泉徴収票」が交付されます。支払金額、退職所得控除額、勤続年数、源泉徴収税額が記載されているので、控除額が正しく反映されているか必ず確認してください。
申告書を出していなかった場合は、ここに20.42%で計算された多めの税額が出ています。これは確定申告で取り戻せます。
確定申告したほうが得になるケース
申告書を出していて課税関係が完結していても、確定申告したほうが得になる場合があります。代表的なのは次のケースです。
・申告書を出さず20.42%の源泉徴収を受けた場合(払いすぎの還付)。・年の途中で退職し、給与の年末調整を受けていない場合。・医療費控除や寄附金控除など、退職所得以外の所得から引ける控除がある場合。
退職所得は分離課税ですが、申告すれば源泉徴収された退職所得分の精算もできます。心当たりがあれば確定申告を検討してください。
よくある間違い・注意点と関連する控除の関係

最後に、相談現場で実際に見てきた失敗例と、見落としやすい関連論点をまとめます。ここを押さえておけば、無駄な税金を払わずに済みます。
控除の二重適用不可・申告漏れなどの失敗例
一番多い失敗が、退職金とiDeCo一時金で控除を二重に使えると勘違いするケース。前述の重複調整があるため、別々の年でも勤続期間が重なれば控除は減ります。
次に多いのが申告書の出し忘れ。20.42%で源泉徴収されたまま、還付の確定申告をせず放置している人が本当に多い。源泉徴収票が手元に来たら、控除額の欄を必ず見てください。
死亡退職金と相続税の関係(所得税非課税となるケース)
本人の死亡後に遺族が受け取る死亡退職金は、所得税ではなく相続税の対象になります。この場合、退職所得としての所得税はかかりません。
相続税には法定相続人1人あたり500万円の非課税枠があるため、退職所得控除とは別の枠で考えます。所得税の話と混同しないよう注意してください。
住民税の特別徴収と天引きのしくみ
退職金にかかる住民税は、退職時に勤務先が特別徴収(天引き)して納めます。課税退職所得に対し原則10%です。給与の住民税のように翌年から後払いではなく、その場で完結する点が特徴です。
ふるさと納税・住宅ローン控除と退職所得の関係
ここは誤解が多いところです。退職所得は分離課税なので、退職金が増えてもふるさと納税の控除上限額は基本的に増えません。退職所得を当てにして寄附額を増やすと、自己負担が膨らむ恐れがあります。
住宅ローン控除も所得税・住民税から差し引く控除ですが、分離課税の退職所得とは扱いが別になります。退職金で税額が増えるからローン控除枠が広がる、とは考えないほうが安全です。
よくある質問
退職金は人生で数回しか手にしないお金です。控除の計算と申告書の提出、この2つさえ押さえれば大きく損することはありません。受取年やiDeCoとの組み合わせで迷ったら、退職日を決める前に一度試算してみてください。
