退職所得の受給に関する申告書とは?書き方・提出方法と控除の計算を解説

逆に出し忘れると、退職金の額に一律20.42%の所得税が源泉徴収されてしまいます。あとから確定申告で取り戻すことは可能ですが、ひと手間増えます。
この記事では、書類の意味と書き方、提出先・時期、勤続年数別の控除額の計算例、複数の退職金やiDeCoがある場合の扱いまで、FP実務の現場で実際に相談を受ける順番に沿って解説します。私は元銀行員で、退職金の相談を12年ほど受けてきました。条文と国税庁の案内を確認しながら書いています。
退職所得の受給に関する申告書とは

ひとことで言えば、退職金を受け取る人が「私はこういう勤続年数で、ほかに退職金はありません」と勤務先に申告するための紙です。この申告があるからこそ、勤務先は退職所得控除を差し引いた正しい税額で源泉徴収できます。
国税庁の手続案内では、退職手当等の支給を受ける人が所得税法第203条第1項各号の事項を記載し、退職手当等の支払者に提出する手続だと説明されています。法的な根拠は所得税法第203条と所得税法施行規則第77条です。
申告書の役割と提出する意味
退職金には、給与とは別の優遇された税金の計算ルールがあります。勤続年数に応じた退職所得控除を引き、さらに残りを2分の1にしてから課税する。この優遇を受けるためのスイッチが、この申告書です。
提出すれば、退職所得控除を踏まえた税額計算の前提が整い、源泉徴収が適切に行われます。提出していれば源泉徴収で精算が完了するため、原則として確定申告は不要になります。
提出する人・提出しない人の違い
国内で退職手当等の支払を受ける居住者は、この申告を行う必要があります。つまり、日本国内で勤め先から退職金をもらう人は、基本的に全員が対象です。
出さない人がいるとすれば、それは「対象外だから」ではなく「出し忘れた人」です。ここが落とし穴。出さなくても退職金は受け取れますが、20.42%が天引きされてしまいます。
退職所得控除という仕組みの基本
退職所得控除は、勤続年数が長いほど大きくなります。退職金のうち、この控除額までは税金がかかりません。
| 勤続年数 | 控除額の計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
勤続年数に1年未満の端数があるときは、切り上げて1年として数えます。たとえば30年2か月なら、31年で計算します。
退職所得控除額の計算方法と税額シミュレーション
ここが、相談で一番聞かれるところです。「結局いくら手元に残るのか」。具体的な金額で見ていきましょう。なお、所得税には別途、復興特別所得税が上乗せされます。

勤続年数別の控除額の計算例
前のセクションの計算式に当てはめると、控除額はこうなります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 10年 | 400万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
| 38年 | 2,060万円 |
たとえば勤続30年で退職金が1,500万円なら、控除額1,500万円と同額。退職所得はゼロで、所得税も住民税もかかりません。
退職金が控除額を超えた分だけが課税対象です。その超えた額をさらに2分の1にした金額が、退職所得になります。
源泉徴収税額と住民税の計算方法
課税退職所得金額(控除後の2分の1の額)が決まったら、そこに所得税の累進税率をかけます。所得税には2.1%の復興特別所得税が上乗せされます。
住民税は退職所得に対して原則10%(市町村民税6%+道府県民税4%)。住民税も、申告書を出していれば退職金の支払い時に天引きされ、別途納める必要はありません。
具体例を出します。勤続30年・退職金2,000万円のケース。控除1,500万円を引くと500万円、その2分の1で課税退職所得は250万円。住民税はおよそ25万円になります。所得税は税率10%・控除97,500円で計算した本税に復興特別所得税を足した額です。
提出した場合と提出しなかった場合の税額比較
同じ退職金でも、申告書を出したかどうかで天引き額が大きく変わります。先ほどの勤続30年・2,000万円で比べます。
| 区分 | 源泉徴収のされ方 | おおよその天引き額 |
|---|---|---|
| 提出あり | 退職所得控除1,500万円を反映 | 所得税・住民税で数十万円程度 |
| 提出なし | 2,000万円 × 20.42% | 約408万円 |
差は歴然です。提出なしだと約408万円が一旦引かれる。出さなかった分は確定申告で取り戻せますが、わざわざその手間を背負う理由はありません。紙1枚で済む話です。
障害が原因で退職した場合の上乗せ特例
病気やけがによる障害が直接の原因で退職した場合、退職所得控除額に100万円が加算されます。これは見落とされやすい特例です。
勤続20年で本来の控除が800万円なら、障害退職では900万円。この事実は申告書のE欄に記載することになるので、該当する方は勤務先に必ず伝えてください。
申告書の書き方(A欄からE欄まで)
様式は国税庁の手続案内から入手できます。欄はAからEまで。全部を埋めるわけではなく、自分に関係する欄だけ記入します。基本はAとB、人によってCからEを使う、という構造です。

A欄・B欄の書き方
A欄は、今回の退職に関する基本情報。退職手当の支払を受けることになった年月日、退職した年月日、勤続期間などを書きます。ここは退職金を受け取る全員が記入します。
B欄は、本年に他からも退職手当を受けている場合に使います。同じ年に2か所以上から退職金が出るケースですね。該当しなければ空欄でかまいません。
C欄・D欄の書き方
C欄は、前年以前4年内(確定拠出年金の老齢給付金の一時金は前年以前9年内)に退職手当を受けている場合の記入欄です。過去の退職金との勤続期間の重なりを調整するために使います。
D欄は、B欄やC欄に該当する人が、前の退職金の勤続期間などをさらに詳しく書く欄です。複数の退職金がない一般的な会社員なら、CもDも使いません。
E欄の書き方と記入間違い時の訂正方法
E欄は、障害退職に該当する場合や、特殊な事情を記載する欄です。前述の障害による退職に当たるなら、ここに記入して上乗せ特例を受けます。
記入を間違えたときは、二重線で訂正します。提出先は勤務先なので、提出前に気づけば書き直しは難しくありません。提出後にミスに気づいた場合は、早めに勤務先の給与担当に連絡してください。源泉徴収のやり直しが必要になることがあります。
申告書の提出方法・提出先・時期

ここを間違える人が意外と多い。提出先は税務署ではありません。
提出先と提出時期
提出先は、退職手当等の支払者、つまり勤務先などの支払者です。原則として税務署へ直接出す手続ではありません。
時期は、退職手当等の支給を受けるまでに提出します。実務では、退職手続きの書類一式と一緒に渡されることが多いです。
必要な添付書類
今回の退職分だけなら、通常は申告書本体のみで足ります。添付書類が必要になるのは、同じ年や過去に他の退職金を受けている場合です。
具体的には、前の退職金の源泉徴収票など、勤続期間や支給額が分かる書類を求められることがあります。B欄・C欄に記入する人は、手元に過去の退職金の資料を用意しておくと安心です。
電子申告(e-Tax)への対応と雇用主側の保管義務
この申告書は税務署に出すものではないため、個人がe-Taxで税務署に送る性質のものではありません。提出先はあくまで勤務先です。電子で出せるかどうかは、勤務先の人事・給与システムの対応次第になります。
提出を受けた勤務先側には保存義務があります。提出された申告書の原本は、事業所で7年間保存すると解説されています。だから個人が税務署へ出す必要がないわけです。
退職金が複数ある場合・特殊なケースの取り扱い
相談現場で間違いが起きやすいのは、ここから先です。退職金が一つだけなら難しくありません。複数あると、控除の二重取りを防ぐための調整が入ります。

複数の会社から退職金を受け取る場合の合算
同じ年に2か所以上から退職金を受け取る場合は、合算して退職所得を計算します。このときに使うのが、先ほどのB欄です。
勤続期間が重なっている部分は、控除の対象として二重には数えません。重複期間を差し引いて控除額を計算するルールになっています。
同一年内に前職の退職金がある場合の通算
年の途中で転職し、前職でも退職金を受けていた。このケースも合算対象です。後から退職金を受け取る勤務先に、前職の源泉徴収票を見せて記入します。
前年以前に受けた退職金との関係はC欄で調整します。退職金は原則として前年以前4年内、確定拠出年金の一時金は前年以前9年内の重複を見ます。
短期退職手当等と役員の2分の1課税不適用ルール
2022年分以降、勤続年数が5年以下の短期退職手当等には注意が必要です。退職所得控除後の金額のうち300万円を超える部分には、2分の1課税が適用されません。
さらに役員等としての勤続年数が5年以下の場合は、いわゆる短期退職金として、退職所得控除後の全額に2分の1課税が適用されません。短期での役員退職金は、思ったより税負担が重くなります。ここは正直、勘違いされやすいポイントです。
iDeCo・確定拠出年金の一時金を受け取る場合
iDeCoや企業型確定拠出年金を一時金で受け取ると、これも退職所得として扱われます。会社の退職金と受給時期が近いと、控除を共有することになります。
確定拠出年金の一時金については、前年以前9年内の退職金との重複を調整します。受け取る順番やタイミングで税額が変わるので、退職金とiDeCoの両方がある方は、受給の年を分けるなど事前の検討をおすすめします。
申告書を出さなかった場合と確定申告での取り戻し方
出し忘れても、最終的な税額が確定で増えるわけではありません。ただし、一度多く引かれて、自分で取り戻す流れになります。

退職所得控除が適用されない仕組み
申告書を出さないと、勤務先はあなたの勤続年数を税計算に反映できません。だから退職所得控除を引けず、支払額にそのまま20.42%をかけて源泉徴収します。
控除が大きい長期勤続者ほど、引かれすぎの額は大きくなります。前述の30年・2,000万円の例で約408万円という数字を思い出してください。
確定申告をした方が良いケース
申告書を出し忘れて20.42%で源泉徴収された人は、確定申告で精算すれば差額が戻ってきます。これは必ずやるべきです。放置するとお金を取り戻せません。
逆に、申告書をきちんと出していれば源泉徴収で精算が済むため、退職金については原則として確定申告は不要です。医療費控除などほかの理由で申告するなら、退職所得も含めて計算します。
年金形式で受け取る場合との税制比較
退職金を一時金でなく年金形式で受け取ると、退職所得ではなく雑所得(公的年金等)として扱われます。こちらは退職所得控除ではなく、公的年金等控除の対象です。
どちらが得かは、受取総額・他の所得・社会保険料への影響で変わります。一時金は退職所得控除と2分の1課税が強力で、控除の範囲に収まるなら税負担はかなり軽い。私が相談を受ける場合、控除内に収まる方には一時金受取を軸に検討してもらうことが多いです。
よくある質問(FAQ)

相談でよく出る疑問を、最後にまとめます。
よくある質問
退職金は人生で何度も受け取るものではありません。だからこそ、紙1枚の出し忘れで数百万円が一旦消えるのは避けたい。退職手続きの書類を受け取ったら、まずこの申告書があるかを確認してください。なければ、自分から人事に「退職所得の受給に関する申告書はどこですか」と聞く。それだけで損を防げます。
