役員退職金の税金と計算方法|功績倍率を使った具体例で解説

- 退職所得の金額は「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」で計算する。
- 退職所得控除額は勤続20年以下なら「40万円×勤続年数」、20年超なら「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」。
- 退職金が退職所得控除額以下なら所得税はかからない。
- 役員退職金の支給額そのものは「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」で決める実務慣行がある(これは税法のルールではない)。
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出せば源泉徴収だけで完結し、原則として確定申告は不要。
役員退職金 税金 計算方法の結論

役員退職金の所得税は、退職金から退職所得控除を引いて半分にした金額に、所得税の速算表の税率を掛けて求めます。
この計算は3ステップで終わります。所要時間は電卓があれば5分ほど、難易度は高くありません。
必要なのは、退職金の支給額・役員としての勤続年数・所得税の速算表の3つだけです。
ポイントは「1/2課税」と「分離課税」。退職金は給与などと合算せず単独で計算するため、同じ金額を受け取っても税率が下がりやすい仕組みになっています。国税庁もこの方法を明示しています。
そもそも会社役員の退職金について税務上は限度額がある
役員退職金は、不相当に高額な部分が損金として認められないという形で、税務上の実質的な上限が存在します。

ここは従業員の退職金と決定的に違うところです。従業員なら金額の妥当性をそこまで厳しく問われませんが、役員の場合は「お手盛り」を防ぐ趣旨で、過大な部分が会社の経費(損金)から外されます。
その妥当性を測るための代表的なものさしが、後で説明する功績倍率法です。実務では「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」で適正額の目安を出します。
正直に言うと、ここを軽く見て功績倍率を3.0や4.0で設定し、税務調査で否認された例を私は何度か見ています。倍率の根拠を社内で説明できるかどうかが分かれ目です。
役員退職金の計算方法
役員退職金の支給額は、実務上「最終報酬月額×在任年数×功績倍率」という功績倍率法で算定されることが多いです。
念のため強調しておきますが、これは税法が定めた公式の計算式ではありません。あくまで適正額を判断するための実務慣行です。税金の計算式(1/2課税)とは別物なので、混同しないでください。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 最終報酬月額 | 退任直前の役員報酬の月額 |
| 在任年数 | 役員として在任した年数 |
| 功績倍率 | 役職や貢献度に応じて設定する倍率 |
3つを掛け合わせた金額が、退職金の支給額の目安になります。次の章で、この功績倍率の中身を見ていきます。
功績倍率について

功績倍率は、役職や会社への貢献度に応じて設定する係数で、社長で3.0前後を用いる例が実務で語られます。
ただし、この数字に法律上の根拠があるわけではありません。あくまで過去の判例や実務の積み重ねから、おおむねこのあたりという相場感が共有されているにすぎません。
私が相談を受けるときは、まず「なぜその倍率なのか」を会社の沿革や役員の役割と結びつけて説明できるかを確認します。倍率だけ高く設定して根拠が薄いと、過大役員退職金として損金不算入のリスクが上がるからです。
役員退職金の具体例(中小企業の場合)
最終報酬月額100万円・在任年数20年・功績倍率3.0の社長なら、退職金の目安は「100万円×20年×3.0=6,000万円」になります。

これはあくまで支給額の目安を出す計算であって、税額の計算ではありません。実際にいくら税金がかかるかは、この6,000万円を退職所得の数式に入れて初めて分かります。
| 最終報酬月額 | 在任年数 | 功績倍率 | 支給額の目安 |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 20年 | 3.0 | 6,000万円 |
| 80万円 | 25年 | 3.0 | 6,000万円 |
| 60万円 | 15年 | 2.0 | 1,800万円 |
同じ6,000万円でも、勤続年数が違えば退職所得控除額が変わり、最終的な税額も変わります。ここが面白いところです。
役員退職金の受け取り方
役員退職金を一括で受け取る場合、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しておくと、源泉徴収だけで課税が完結し、原則として確定申告は不要になります。
逆に、この申告書を出していないと退職所得控除が反映されず、支払金額に対して一律20.42%の源泉徴収がかかります。後で確定申告すれば取り戻せますが、手間が増えるだけです。
| 状況 | 源泉徴収の扱い | 確定申告 |
|---|---|---|
| 申告書を提出した | 退職所得控除を反映して正しく計算 | 原則不要 |
| 申告書を未提出 | 支払金額に一律20.42%を源泉徴収 | 還付を受けるなら必要 |
役員退職金にかかる税金について

役員退職金にかかる税金は、所得税・復興特別所得税・住民税の3つです。
住民税は退職所得に対して10%、復興特別所得税は基準となる所得税額に2.1%を乗じて計算します。退職金は給与と分けて課税されるため、年収全体を押し上げて税率が跳ね上がる、ということは起きません。
| 税目 | 計算の基礎 | 税率 |
|---|---|---|
| 所得税 | 課税退職所得金額 | 速算表の税率 |
| 復興特別所得税 | 所得税額(基準所得税額) | 2.1% |
| 住民税 | 退職所得 | 10% |
退職金にかかる所得税
退職金の所得税は、他の所得と分離して「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」で求めた退職所得に税率を掛けて計算します。

支払う側、つまり会社が所得税額と復興特別所得税額を計算して源泉徴収します。受け取る本人が自分で計算して納める必要は、原則ありません。
ここから先は、実際の計算を3ステップに分けて手を動かしていきます。電卓を用意してください。
①退職所得控除額を計算する
最初に、勤続年数に応じて退職所得控除額を計算します。
勤続20年以下なら「40万円×勤続年数」、最低でも80万円です。勤続20年超なら「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」になります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
例えば在任25年なら「800万円+70万円×5年=1,150万円」。ここまで計算できていれば、第1ステップは正しく進んでいます。
つまずきやすいのは勤続年数の端数です。1年未満の端数は切り上げて1年として数えるため、20年1か月なら21年で計算します。
②課税退職所得金額を計算する

次に、退職金から①の控除額を引き、その半分にして課税退職所得金額を求めます。
式は「(退職金-退職所得控除額)×1/2」。在任25年・退職金6,000万円なら、(6,000万円-1,150万円)×1/2=2,425万円が課税退職所得金額です。
このとき1,000円未満の端数は切り捨てます。計算結果がマイナス、つまり退職金が控除額以下なら、課税退職所得金額はゼロで所得税は発生しません。
③課税所得に対する税率と控除額を確認する
最後に、課税退職所得金額に所得税の速算表の税率を掛け、控除額を引いて所得税額を計算します。

先ほどの課税退職所得2,425万円なら、所得税の速算表で税率40%・控除額279万6,000円の区分に入ります。所得税額は2,425万円×40%-279万6,000円=690万4,000円です。
ここに復興特別所得税2.1%を上乗せします。690万4,000円×2.1%=約14万4,984円。合計でおよそ704万8,984円が源泉徴収される所得税・復興特別所得税の目安です。
これに住民税として退職所得2,425万円×10%=242万5,000円が加わります。6,000万円の退職金でも、1/2課税と分離課税のおかげで税負担はこの水準にとどまります。給与でこの金額を受け取った場合と比べると、差は歴然です。
うまく計算が合わないときは、控除額を引く前に1/2を掛けてしまっていないか確認してください。順番は「控除を引く→半分にする→税率を掛ける」です。これでこの手順による役員退職金の税額計算ができました。
