退職所得の受給に関する申告書とは?書き方と控除額の計算を徹底解説

私はFPとして退職金の相談を受けるたびに、この紙を出し忘れて損をしかけた人を何度も見てきました。手数料はかかりません。むしろ出さない方が損をします。
この記事では、控除額の早見表、実際の数字を使った税額シミュレーション、A欄からE欄までの書き方、提出方法、そして万一出し忘れた場合に確定申告で取り戻す手順まで、順を追って解説します。
退職所得の受給に関する申告書とは

ひとことで言うと、退職金にかかる税金を正しく(=有利に)計算してもらうために、退職金を払う会社へ提出する書類です。国税庁の手続案内では、退職手当等の支給を受ける人が所得税法第203条1項各号の事項を記載し、退職手当等の支払者に提出する手続と定められています。
この申告書の役割と目的
退職所得は給与とは別枠で、税金がかなり軽くなるよう設計されています。具体的には、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引き、残った金額の半分にだけ課税する(1/2課税)という仕組みです。
この優遇を会社の源泉徴収の段階で適用してもらうための合図が、この申告書です。法的根拠は所得税法第203条および所得税法施行規則第77条にあります。
提出する人・対象者
対象は退職手当等の支給を受ける人です。民間の解説では、国内で退職手当等の支払いを受ける居住者が対象と整理されています。会社員が定年や中途退職で退職金を受け取るケースが典型ですね。
提出しないとどうなるか
出さなかった場合、退職所得控除も1/2課税も適用されません。民間解説によると、退職金の支給額に対して一律20.42%の税率で源泉徴収されます。
正直、これは大損です。たとえば退職金1,000万円なら、何もしなければ約204万円が天引きされる計算になります。控除を使えば本来ほとんど税金がかからない人でも、です。
退職所得控除額の計算方法と早見表
控除額は勤続年数だけで決まります。難しい計算は不要で、20年を境に1年あたりの加算額が変わるのがポイントです。ここを早見表にしておきます。

勤続年数による控除額の決まり方
勤続20年以下は「40万円 × 勤続年数」(最低80万円)、20年超は「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)」で計算します。勤続年数の1年未満の端数は切り上げです。たとえば20年3か月なら21年として扱います。
勤続年数別の控除額早見表
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 5年 | 200万円 |
| 10年 | 400万円 |
| 15年 | 600万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 25年 | 1,150万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
| 35年 | 1,850万円 |
| 40年 | 2,200万円 |
勤続30年なら1,500万円まで控除されます。つまり退職金が1,500万円以下なら、課税対象になる退職所得はゼロ。税金はかかりません。
障害が原因で退職した場合の控除上乗せ
障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、上の控除額にさらに100万円が上乗せされます。勤続10年で障害退職なら、400万円 + 100万円 = 500万円の控除になります。この上乗せは申告書のC欄で該当を申告して受けます。
勤続5年以下の短期退職手当等の取り扱い
勤続5年以下の人は注意が必要です。2022年分以降、勤続5年以下(役員以外)で退職金から退職所得控除を引いた残りが300万円を超える部分には、1/2課税が使えなくなりました。
具体的には、控除後の金額のうち300万円までは2分の1、300万円を超える部分は全額がそのまま退職所得になります。短期で高額な退職金を受け取る場合だけ効いてくるルールなので、多くの会社員はあまり気にしなくて大丈夫です。
源泉徴収税額のシミュレーションと手取り比較
ここが一番気になるところだと思います。実際の数字で、申告書を出した場合と出さなかった場合でいくら違うのかを試算します。私が相談現場でよく使う計算手順そのままです。

退職所得にかかる税額の計算手順
手順はシンプルです。①退職金 − 退職所得控除額 = 残額、②残額 × 1/2 = 退職所得(課税退職所得金額)、③退職所得に所得税率を掛けて税額を出す。この①〜③が申告書を出した場合の正規ルートです。
実際の数字を使った税額試算
退職金1,000万円・勤続25年のケースで計算します。控除額は早見表どおり1,150万円。退職金1,000万円は控除額の範囲内なので、課税退職所得はゼロ。所得税も復興特別所得税もかかりません。
次に退職金2,000万円・勤続25年なら、2,000万 − 1,150万 = 850万円、その半分の425万円が退職所得。所得税の速算で税額はおよそ45万円ほどになります(復興特別所得税を含めると約46万円)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職金 | 2,000万円 |
| 退職所得控除額 | 1,150万円 |
| 課税退職所得金額(×1/2) | 425万円 |
| 所得税の概算 | 約45万円 |
提出した場合としなかった場合の手取り比較
申告書を出さないと、控除も1/2課税も無視され、退職金全額に20.42%がかかります。同じ退職金2,000万円で比べると差は歴然です。
| 区分 | 源泉徴収税額の目安 | 差額 |
|---|---|---|
| 申告書を提出した場合 | 約46万円 | — |
| 提出しなかった場合 | 約408万円 | 約362万円多い |
その差およそ362万円。これだけの金額が、紙1枚を出すか出さないかで変わります。出さなかった分は確定申告で取り戻せますが、戻ってくるまで時間がかかる。最初から出すのが正解です。
退職金にかかる住民税の取り扱い
住民税も退職所得から課税されます。退職所得の住民税は、退職金支払い時に会社が天引きする特別徴収が原則で、税率は道府県民税4%・市町村民税6%の合計10%です。課税退職所得金額に10%を掛けた額が天引きされます。
先ほどの課税退職所得425万円なら、住民税はおよそ42.5万円。所得税とは別にかかる点を見落とさないでください。
申告書の書き方と提出方法

書類は1枚で、A欄からE欄に分かれています。多くの会社員はA欄だけ埋めれば済みます。提出先は税務署ではなく会社です。ここを勘違いする人が本当に多い。
A欄からE欄までの記入手順
各欄の役割を整理します。自分がどこを書くべきか、ここで判断してください。
| 欄 | 記入する内容 | 対象になる人 |
|---|---|---|
| A欄 | 今回の退職に関する勤続期間など基本事項 | 退職金を受け取る全員 |
| B欄 | 前年以前に受け取った退職金がある場合の内容 | 過去4年内などに退職金を受けた人 |
| C欄 | 障害退職など特別な事情の有無 | 障害が原因で退職した人など |
| D欄 | 同一年中に他の退職金も受け取る場合の内容 | 同じ年に複数の退職金を受ける人 |
| E欄 | B・Dに関連する重複勤続期間の調整 | 複数の退職金で勤続期間が重なる人 |
今回の退職1件だけなら、A欄に氏名・住所・勤続期間などを書いて提出すれば完了です。B〜E欄は複数の退職金や特殊事情がある人だけ埋めます。
提出先と提出時期
提出先は退職手当等の支払者、つまり退職金を払う会社(や共済など)です。提出時期は退職手当等の支払いを受ける時まで。給与計算の都合があるので、実務上は退職前に総務・人事へ早めに出すのが安全です。
必要な添付書類と電子提出への対応
前年以前に受け取った退職金についてB欄に書く場合は、その退職金の源泉徴収票(退職所得の源泉徴収票)を添付します。それ以外で初めて退職金を受け取るだけなら、添付書類は基本的に不要です。
電子化については、社内システムで電子的に提出できる会社も増えています。ただし対応状況は会社ごとに違うため、紙か電子かは勤務先の総務に確認してください。なお、民間解説では2026年1月から改正様式が案内されるとされていますが、国税庁の改正告知ページそのものは私の確認時点では特定できていません。最新様式は会社から渡される用紙を使えば問題ありません。
記入ミス・記入漏れの訂正方法
提出後に間違いに気づいたら、まずは退職金を払う会社の担当者へすぐ連絡してください。まだ源泉徴収前なら、訂正した申告書を出し直せば対応できることがほとんどです。
すでに源泉徴収が済んでしまった後でも、確定申告で正しい税額に精算できます。慌てなくて大丈夫。要は、最終的に確定申告で帳尻が合わせられます。
複数の退職金やiDeCoを受け取る場合の注意点
ここからは少し複雑なケースです。退職金を2か所からもらう人、iDeCoの一時金と退職金を近い時期に受け取る人は、控除の使い方を間違えると損をします。私の相談でも質問が集中する論点です。

同一年・前年以前に複数受給する場合
同じ年に複数の退職金を受け取る場合はD欄に、前年以前(原則として前年から数えて4年内など)に受け取っている場合はB欄に記入します。退職所得控除は退職金ごとに満額使えるわけではなく、勤続期間が重なる分は調整(E欄)されます。
ポイントは、控除を二重取りできない点です。複数社で勤続期間がかぶっていれば、その重複期間は1回分としてしか控除に算入されません。
iDeCo・確定拠出年金の一時金との合算ルール
iDeCoや企業型確定拠出年金を一時金で受け取ると、これも退職所得として扱われます。退職金とiDeCo一時金を同じ年に受け取ると、退職所得控除は合算した上で計算され、それぞれに満額の控除は使えません。
受け取る年をずらせば控除を有効に使えるケースもあります。ただしiDeCoには「前年以前一定期間内に退職金を受けていると控除が制限される」ルールがあり、単純に1年ずらせば得とは限りません。金額が大きいなら、受給前にFPや税理士へ一度相談することを私は勧めます。
役員退職金・特定役員退職手当等の特別ルール
役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る役員退職金は「特定役員退職手当等」に該当し、1/2課税が一切使えません。控除後の金額がそのまま退職所得になります。
会社役員で在任期間が短い方は、ここで税負担が大きく変わります。一般社員の短期退職手当等(300万円までは1/2が残る)とは扱いが違うので、混同しないでください。
特殊なケースでの退職所得の取り扱い
死亡退職、海外勤務、会社側の保管義務。この3つは個別の相談で実際に出てきた論点です。一般的な解説では薄くなりがちなので、ここでまとめておきます。

死亡退職金を受け取った遺族の場合
本人の死亡後に遺族が受け取る死亡退職金は、所得税の退職所得ではなく相続税の対象になります。したがって、この「退職所得の受給に関する申告書」を遺族が出す場面ではありません。
死亡退職金には相続税の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)があります。所得税の退職所得控除とは別の制度なので、混同しないよう注意してください。
海外勤務期間がある場合や非居住者
国内で退職手当等を受け取る居住者がこの申告書の対象です。海外勤務期間があっても、退職時点で居住者であれば原則として国内勤続として控除計算の対象になります。
一方、退職時に非居住者(海外在住)である場合は、源泉分離課税など扱いが変わります。海外赴任中の退職など特殊なケースは、勤務先の経理部門や税務署に個別確認するのが確実です。
会社側の7年間保管義務と税務署への提出要否
提出された申告書は、原則として会社が保管します。民間解説では、支払者が受理した原本は7年間保存とされています。税務署から提出を求められない限り、会社が税務署へ送る必要はありません。
つまり、申告書はあなたの手元には残らず会社で保管されるのが通常です。控えが欲しい場合は、提出前にコピーを取っておくと安心です。
申告書を出し忘れた場合の確定申告での還付手順

出し忘れても、まだ取り返せます。一律20.42%で源泉徴収された人は、翌年の確定申告で正しい税額に計算し直し、払いすぎた分の還付を受けられます。
確定申告で取り戻せる仕組み
申告書を出さなかった場合、控除も1/2課税も使われていません。確定申告で退職所得を本来のルール(控除を引いて1/2)で再計算すると、源泉徴収された税額の方が多くなり、その差額が戻ってきます。
勤続が長く退職金が控除の範囲内に収まる人ほど、戻る額は大きくなります。先ほどの試算のように数百万円単位で戻るケースもあります。
還付を受けるための具体的な手順と必要書類
手順はこうです。①会社から「退職所得の源泉徴収票」をもらう、②確定申告書に退職所得を記入し控除・1/2課税で計算、③源泉徴収済みの税額を差し引いて還付額を出す、④税務署へ提出(e-Taxまたは郵送・持参)。
| 必要書類 | 入手先・備考 |
|---|---|
| 退職所得の源泉徴収票 | 退職金を払った会社から受領 |
| 確定申告書 | 国税庁サイト・e-Taxで作成可 |
| 本人確認書類・マイナンバー | マイナンバーカードなど |
| 還付金受取口座の情報 | 本人名義の銀行口座 |
還付申告は退職した年の翌年1月1日から5年間できます。慌てて期限内に、と焦る必要はありません。源泉徴収票さえ手元にあれば、落ち着いて進められます。
退職所得の受給に関する申告書のよくある質問
相談現場で実際によく聞かれる質問を、短く答えにまとめました。

よくある質問
最後にひとつだけ。退職が決まったら、退職金より先にこの申告書のことを思い出してください。出すだけで数十万〜数百万円の差が出ます。私が現場で一番念を押すポイントです。
