中小企業の退職金にかかる税金の仕組みを計算例つきで徹底解説

私はFPとして13年、退職金まわりの相談を受けてきました。この記事では、受け取る側の税額計算から、中小企業が選べる制度、会社側の経理処理、役員退職金の注意点までを計算例つきで整理します。
読み終えるころには、自社や自分のケースで「いくら手取りが残るか」「何から手をつけるか」が判断できる状態を目指します。
中小企業の退職金にかかる税金の仕組みをまず結論から理解する

先に全体像を言ってしまいます。退職金は他の所得と切り離して計算される「分離課税」で、しかも控除が手厚い。だから同じ金額を給与でもらうより、税金はぐっと軽くなります。
退職金は給与より税金が軽くなる「退職所得」という考え方
国税庁は、退職金を原則「退職所得」として他の所得と分離して課税すると説明しています。
ポイントは2つ。勤続年数に応じた退職所得控除が引けること、控除後の金額をさらに2分の1にしてから税率をかけること。この「半分にする」効果が、退職金が優遇されている最大の理由です。
退職金とは何か・なぜ優遇されるのか
退職金とは、従業員が退職するときに会社が支払う金銭です。長年働いた対価であり、老後の生活資金でもある。
だから国は、一度にまとまった額に普通の税率をかけて重くしないよう、控除と2分の1課税で配慮しています。これは私が条文を読んでいても、はっきり「優遇したい」という意図が伝わる作りです。
会社側と受け取る側で見る税金の全体像
混乱しやすいのが「誰に何の税金がかかるか」です。立場で分けると一気に見やすくなります。
| 立場 | 主な税金・処理 | ポイント |
|---|---|---|
| 受け取る側(従業員・役員) | 所得税・復興特別所得税・住民税 | 退職所得控除+2分の1課税。申告書を出せば源泉徴収で完結 |
| 支払う側(会社) | 支払額を損金算入 | 適正額なら経費。役員は適正額の判定が必要 |
以降は、まず受け取る側の計算を固め、それから会社側・役員の話に進みます。
退職金を受け取る人にかかる税金の計算方法
計算は3ステップです。控除を出す、退職所得を出す、税額を出す。順番にやれば難しくありません。

退職所得控除額の計算(勤続年数で決まる)
退職所得控除は勤続年数で決まります。国税庁の計算式は次のとおりです。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円未満なら80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
たとえば勤続30年なら、800万円+70万円×10年で1,500万円。ここまでの退職金なら課税される退職所得は発生しません。
退職所得と税額の出し方
退職所得の金額は「(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2」で計算します。この退職所得に所得税の税率をかけて税額を出します。
具体例で見ます。勤続25年・退職金1,500万円のケース。控除は800万円+70万円×5年=1,150万円。退職所得は(1,500万円−1,150万円)×1/2=175万円。この175万円に税率がかかります。
退職金が控除額以下なら、退職所得はゼロ。つまり所得税は非課税です。中退共からの一時金も、所定の申告をすれば退職所得控除の対象になります。
退職金にかかる住民税の計算
忘れがちなのが住民税です。退職所得には住民税も課され、退職時に特別徴収(給与天引きのような形で会社がまとめて納付)されます。
住民税も同じ退職所得をベースに計算するので、課税対象は所得税と共通です。先ほどの退職所得175万円に対して、所得税と住民税の両方がかかる、とイメージしてください。
退職所得の受給に関する申告書を出すかどうかで変わる税率
ここは絶対に押さえてほしい実務ポイント。「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に出すかどうかで、源泉徴収が大きく変わります。
提出すれば、控除と2分の1課税を反映した正しい税額が源泉徴収され、通常は確定申告も不要。提出しないと、退職金収入金額の20.42%が一律で源泉徴収されます。
控除で本来ゼロになるはずの人でも、未提出だと20.42%引かれてしまう。正直、出し忘れは一番もったいない失敗です。最終的に確定申告で取り戻せますが、最初から出すのが鉄則です。
勤続年数別・受取方法別で見る退職金の税金シミュレーション
数字を入れて手取りを追います。控除式と2分の1課税の効果が、勤続年数でどう効くかを見てください。

勤続年数別の手取りケーススタディ
退職金1,000万円で、勤続年数だけを変えてみます。退職所得控除と退職所得の金額を比較しました。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | 課税対象(退職所得) |
|---|---|---|
| 10年 | 400万円 | (1,000−400)×1/2=300万円 |
| 20年 | 800万円 | (1,000−800)×1/2=100万円 |
| 25年 | 1,150万円 | 0円(控除内で非課税) |
| 30年 | 1,500万円 | 0円(控除内で非課税) |
同じ1,000万円でも、勤続25年を超えると課税対象が消えるのが分かります。長く勤めるほど税制上は圧倒的に有利です。
一時金で受け取る場合と年金で受け取る場合の比較
確定給付企業年金や確定拠出年金は、一時金でも年金でも受け取れます。税金の扱いが変わるのがやっかいなところ。
一時金で受け取れば退職所得として退職所得控除と2分の1課税が使えます。年金で受け取ると「公的年金等」として雑所得になり、公的年金等控除の対象です。
| 受取方法 | 所得区分 | 使える控除 |
|---|---|---|
| 一時金 | 退職所得(分離課税) | 退職所得控除+2分の1課税 |
| 年金 | 雑所得(公的年金等) | 公的年金等控除 |
私の感覚では、退職所得控除の枠内に収まる金額なら一時金が有利なことが多いです。ただ年金受取は他の公的年金と合算されるため、受給開始の時期や金額で逆転もあり得ます。ここは個別試算が要ります。
勤続5年以下の短期退職手当等の課税ルール(2022年改正)
見落とされがちなのが、勤続年数の短い人への課税強化です。2022年分から、勤続5年以下の「短期退職手当等」に新ルールが入りました。
勤続5年以下で、退職所得控除を引いた残額が300万円を超える部分については、2分の1課税が使えません。短期で多額の退職金を受け取る役員や中途退職者は、思ったより税額が増えるので注意してください。
中小企業が選べる退職金制度の種類と税金の扱い

制度の有無で税金の「計算方法」自体は変わりません。ただ準備のしやすさ、コスト、事務負担は制度ごとに大きく違います。中小企業に現実的な選択肢を整理します。
退職一時金制度
会社が自前で規程を作り、退職時に一括で支払う方式です。設計の自由度は高いものの、原資を自社で確保しなければなりません。
支払時に損金算入できますが、まとまった額を一度に出すため資金繰りの負担が読みにくい。私が相談を受ける中小企業では、ここを別の積立で補う形が多いです。
中小企業退職金共済(中退共)の掛金・補助金・加入条件
中小企業に一番すすめやすいのが中退共です。独立行政法人 勤労者退職金共済機構が運営し、事業主が掛金を納め、退職時に共済から従業員へ直接支払われます。
掛金は月額5,000円から30,000円までの16種類。全額事業主負担で、賃金や賞与とは別に拠出します。新規加入時や掛金増額時には国の助成制度が用意される場合があります。
掛金は全額損金、退職金は従業員へ直接支払われ社外に積み立てられる。会社が倒れても従業員の退職金が守られる点を、私は高く評価しています。最新の助成条件は加入前に必ず中退共公式で確認してください。
確定給付企業年金と企業型確定拠出年金
より本格的な仕組みが企業年金です。確定給付企業年金(DB)は将来の給付額を会社が約束する方式、企業型確定拠出年金(DC)は掛金を拠出し運用結果で給付が決まる方式です。
DCは運用リスクを従業員側が負う一方、会社の追加負担リスクが小さい。受取時は一時金なら退職所得、年金なら公的年金等として課税されます。
制度ごとのコストと運用負担の比較
中小企業の目線で、導入のしやすさと負担を並べます。
| 制度 | 原資の準備 | 事務・運用負担 | 税の扱い |
|---|---|---|---|
| 退職一時金 | 自社で確保 | 規程整備が必要 | 支払時に損金 |
| 中退共 | 掛金5,000〜30,000円/月 | 小さい(共済が支給) | 掛金全額損金 |
| 確定給付企業年金(DB) | 会社が給付を保証 | 大きい | 掛金を損金 |
| 企業型確定拠出年金(DC) | 掛金拠出(運用は本人) | 中程度 | 掛金を損金 |
正直に言うと、従業員が数人〜数十人規模なら、まず中退共。事務負担と倒産リスク対応のバランスが抜けて良いです。年金制度は人員と管理体制が整ってから検討で十分だと考えています。
会社側(雇用主)の税務・会計処理と退職金の準備方法
ここからは支払う会社側の話。経費にできるタイミングと、原資をどう貯めるかがテーマです。

損金算入のタイミングと退職給付引当金
退職金を経費(損金)にできるのは、原則として支払いが確定したときです。中退共のような掛金方式なら、掛金を払った期に全額損金になります。
会計上は将来の退職給付に備えて引当金を計上することもありますが、引当金の繰入が税務上そのまま損金になるとは限りません。会計と税務でズレが出る点は、顧問税理士と確認してください。
生命保険・社外積立・内部留保による資金準備
自前で退職一時金を払う会社の悩みは、原資の準備です。手段は大きく3つ。
内部留保で貯める、社外に積み立てる(中退共など)、法人向け生命保険を活用する。それぞれ流動性と税効果が違います。
内部留保は自由度が高い反面、つい運転資金に回って退職時に足りなくなりがち。私は「退職金の原資は社外に出して触れなくする」方が結局うまくいくと考えています。
退職金制度の導入手順と退職金規程の整備
制度を入れるなら手順はこうです。支給対象・計算方法・支給時期を決め、退職金規程を作り、就業規則と整合させる。
規程に支給条件を明記しておかないと、退職トラブル時に「払う・払わない」で揉めます。中退共を使う場合は、加入手続きと併せて規程を整えるのが王道です。
経営者・役員の退職金と税金で見落としやすい注意点
従業員と違い、役員の退職金は「いくらまで経費にできるか」が論点になります。ここを外すと税務調査でつまずきます。

役員退職金の損金算入と適正額の算定(功績倍率法)
役員退職金は不相当に高額な部分が損金にならない、というのが基本です。適正額の目安としてよく使われるのが功績倍率法。
「最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」で算定します。功績倍率は社長で3.0前後が目安として語られますが、業種や貢献度で妥当性が判断されます。根拠資料を残しておくことが大切です。
役員も退職所得として控除と2分の1課税が使えます。ただし勤続5年以下の役員は短期退職手当等の対象で2分の1課税が制限される点を、改めて確認してください。
退職金を支払えない場合のリスクと未払い時の対応
原資不足で退職金が払えない。これは実際に起きます。規程で約束していれば支払義務があり、未払いは労使トラブルや訴訟リスクに直結します。
だからこそ、自前一時金より社外積立を私はすすめます。どうしても資金が足りないときは、分割払いの合意や支給時期の調整を書面で交わすなど、放置せず早めに手を打つことです。
小規模企業共済やiDeCoとの併用と受取時期の調整による節税
経営者個人の備えとしては、小規模企業共済やiDeCoが有力です。掛金が所得控除になり、受取時は退職所得や公的年金等として優遇されます。
注意したいのは受取時期。退職所得控除は、複数の退職金を近い時期に受け取ると控除枠の重複調整が入ります。会社の退職金とiDeCo一時金、小規模企業共済を同年にまとめて受け取ると、控除を使い切れず損をすることも。
受取年をずらして控除枠を別々に使えないか、私はいつもここを試算します。数年ずらすだけで税額が変わるので、退職の数年前から段取りする価値があります。
中小企業の退職金と税金に関するよくある質問

相談現場でよく聞かれる質問を、要点だけ短くまとめます。
よくある質問
最後に一つだけ。税金で一番もったいないのは「申告書の出し忘れ」と「受取時期の重なり」です。ここだけは退職の前に必ず確認してください。迷ったら、退職予定日が決まった時点でFPや税理士に試算を頼むのが、結局いちばん損をしません。
