退職所得の源泉徴収票とは?見方と税金の計算・還付を徹底解説

私はFPとして退職金まわりの相談を13年受けてきましたが、申告書の出し忘れで一律20.42%を引かれたまま、確定申告で取り戻せることを知らない方が本当に多い。
この記事では、退職所得の源泉徴収票の各項目の見方、退職所得控除と所得税・住民税の計算、申告書の有無による税額差、そして還付や再発行の手順まで、実務で使える形でまとめます。
退職所得の源泉徴収票とは?まず押さえる基本

退職所得の源泉徴収票は、退職金がいくら支払われ、そこからいくら税金が引かれたかを証明する書類です。給与のものとは別物で、退職日から1か月以内に本人へ交付する義務があります。
退職所得の源泉徴収票の役割と概要
この書類の役割は、退職金の支払額・控除額・源泉徴収税額を公式に記録することです。確定申告や住民税の手続き、転職先や年金の手続きで使う場面があります。
退職所得は給与や事業所得と合算せず、単独で税額を計算する「分離課税」です。だから源泉徴収票も給与とは独立して作られます。
給与所得の源泉徴収票との違い
一番分かりやすい違いは交付のタイミングです。給与は翌年1月末ですが、退職所得は退職日から1か月以内。スピード感がまるで違います。
| 項目 | 給与所得 | 退職所得 |
|---|---|---|
| 課税方式 | 総合課税(合算) | 分離課税(単独計算) |
| 交付時期 | 翌年1月末ごろ | 退職日から1か月以内 |
| 1/2課税 | なし | 原則あり |
| 控除 | 給与所得控除 | 退職所得控除 |
退職所得は「(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2」で課税対象を出します。この1/2が、退職金が税制上とても優遇されている理由です。
交付の対象者と提出範囲
本人への交付は全員が対象です。一方、税務署や市町村への提出範囲は今まで会社役員に限られるケースがありました。
ここが大きく変わります。令和8年(2026年)1月以降に支給される退職金からは、提出範囲が役員のみから「すべての居住者(従業員を含む)」に拡大されます。
拡大後は、受給者本人用・税務署提出用・市町村提出用の3通すべての作成・提出が義務になります。市町村には「特別徴収票」として提出します。
源泉徴収票の各記載項目の見方を一つずつ解説
源泉徴収票は数字の羅列に見えますが、見るべきポイントは3つだけです。支払金額、退職所得控除額、源泉徴収税額。ここを押さえれば自分の手取りの根拠が分かります。

支払金額・退職所得控除額の読み方
「支払金額」は税引き前の退職金の総額です。手取りではありません。ここを手取りと勘違いする相談者は毎年います。
「退職所得控除額」は、勤続年数に応じて差し引ける非課税枠です。20年以内は1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円で計算します。
源泉徴収税額の確認ポイント
源泉徴収税額の欄に注目してください。申告書を出していれば控除と1/2課税が効いた低い金額に、出していなければ支払金額に一律20.42%を掛けた高い金額になります。
私が見るときは、まず支払金額×20.42%を電卓で出します。源泉徴収税額がそれと一致していたら、申告書が未提出のサイン。還付の可能性ありです。
勤続年数の数え方と記載ルール
勤続年数は1年未満の端数を切り上げます。たとえば20年3か月なら21年として計算します。この1日の差が控除額70万円を左右することもある。
入社日と退職日が記載欄にあるので、自分の認識とズレていないか必ず確認してください。
退職所得にかかる税金の計算方法
計算は3ステップです。退職所得控除額を出す、課税退職所得金額を出す、税率を掛ける。順番に勤続年数別のシミュレーションで見ていきます。

退職所得控除額の計算と勤続年数別シミュレーション
控除額の公式はシンプルです。勤続20年以内は40万円×年数、20年超は800万円+70万円×(年数−20年)。
国税庁の例でいくと、勤続25年なら「40万円×20年+70万円×5年=1,150万円」が控除額になります。
| 勤続年数 | 計算式 | 退職所得控除額 |
|---|---|---|
| 10年 | 40万円×10年 | 400万円 |
| 20年 | 40万円×20年 | 800万円 |
| 25年 | 800万円+70万円×5年 | 1,150万円 |
| 30年 | 800万円+70万円×10年 | 1,500万円 |
| 38年 | 800万円+70万円×18年 | 2,060万円 |
課税退職所得金額と所得税の求め方
課税退職所得金額は「(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2」です。たとえば勤続25年で退職金1,500万円なら、(1,500万−1,150万)×1/2=175万円。
この175万円に所得税の税率を掛けます。退職金が控除額を下回れば、課税はゼロ。所得税も住民税もかかりません。
住民税(特別徴収)の計算と退職所得との関係
退職所得の住民税も分離課税です。課税退職所得金額に対して、おおむね市町村民税6%・道府県民税4%の合計10%が、退職金支払時に特別徴収されます。
令和8年以降は、この住民税分も含めて市町村へ「特別徴収票」を提出する流れに整理されます。給与の住民税のように翌年から後払いになるわけではなく、退職金は支払時に天引きされる点が大きな違いです。
「退職所得の受給に関する申告書」で税額はこう変わる

正直、この申告書1枚で税額が数十万円変わることがあります。退職金の税金で最も大事な書類と言ってもいい。提出の有無で何がどう変わるか、具体的に分けて説明します。
申告書を提出した場合の源泉徴収税額
申告書を出せば、退職所得控除と1/2課税が適用されます。控除額を超えた部分の半分にだけ課税されるので、実効税率は勤続年数に応じてかなり低く抑えられます。
控除額の範囲内に退職金が収まれば、源泉徴収税額は0円。これが本来あるべき姿です。
未提出だと一律20.42%課税になる仕組み
申告書を出さないと、控除も1/2課税も一切使えません。退職手当等の額に対して、いきなり一律20.42%が源泉徴収されます。
国税庁は「20.42パーセントの税率を乗じて計算した額」を源泉徴収すると明記しています。控除前の総額に掛かるので、税額は跳ね上がります。
提出のタイミングと書き方の注意点
提出先は税務署ではなく、退職金を支払う会社です。退職金の支払を受けるときまでに出すのが原則。
過去にiDeCoや別の会社からの退職金を受け取っている人は、その情報も申告書に記載が必要です。書き漏らすと控除の調整が正しくできません。
確定申告で還付が受けられるケースと具体例
申告書を出し忘れて20.42%を引かれた人でも、確定申告で取り戻せます。ここを知らずに放置している人が一番もったいない。具体例で見ていきます。

申告書を出し忘れたときの取り戻し方
未提出で源泉徴収された場合、確定申告で退職所得を正しく計算し直せば、本来より多く引かれた分が還付されます。
たとえば勤続25年・退職金1,000万円。控除額1,150万円を退職金が下回るので、本来の税額はゼロ。なのに未提出だと1,000万×20.42%=約204万円も引かれます。確定申告すればほぼ全額戻る計算です。
退職した年の所得控除への影響
見落としがちなのが、退職した年の他の所得への影響です。退職所得は分離課税なので、給与など他の所得が少ない年は、社会保険料控除や配偶者控除などの所得控除を使い切れないことがあります。
そういう年こそ確定申告で全体を整理すると、医療費控除や寄附金控除と合わせて還付が増えるケースがあります。退職した年は一度試算してみる価値があります。
一時金と年金形式で受け取る場合の税務比較
退職金を一時金で受け取れば退職所得控除と1/2課税の優遇が使えます。年金形式なら公的年金等控除の対象になり、毎年の雑所得として課税されます。
| 項目 | 一時金で受取 | 年金形式で受取 |
|---|---|---|
| 所得区分 | 退職所得(分離課税) | 雑所得(公的年金等) |
| 主な控除 | 退職所得控除+1/2課税 | 公的年金等控除 |
| 課税のタイミング | 受取年に一括 | 受取期間中に毎年 |
どちらが得かは退職金額・勤続年数・他の年金収入で変わります。控除額を退職金が下回る人は、一時金一括のほうが非課税で済むことが多いです。
見落としやすい特例と調整ルール(独自の注意点)
ここからは相談現場で「知らなかった」と言われることが多い特例です。役員の短期退職、障害退職、iDeCoとの調整。どれも税額を左右します。

障害が原因で退職した場合の控除上乗せ特例
障害者になったことが直接の原因で退職した場合、退職所得控除額に100万円が上乗せされます。通常の控除に加算される形です。
この特例を使うには会社への申し出が必要です。源泉徴収票の控除額が通常計算と一致しているなら、上乗せが反映されていない可能性があります。
役員等の短期退職手当と2分の1課税の不適用
勤続5年以下の役員等が受け取る退職金は「短期退職手当等」とされ、1/2課税が使えません。控除後の全額が課税対象になります。
近年は一般従業員でも、勤続5年以下の退職金のうち控除後300万円を超える部分に1/2課税が適用されない取扱いがあります。短い勤続で高額の退職金を受け取る人は要注意です。
iDeCo・小規模企業共済との退職所得控除の重複調整
iDeCoや小規模企業共済の一時金も退職所得です。会社の退職金と同じ年や近い年に受け取ると、退職所得控除を別々にフルで使えるわけではありません。
私が特に注意を促すのがこのケース。iDeCoを先に受け取り、数年以内に会社の退職金を受け取ると、勤続年数の重複期間が控除から差し引かれます。受け取る順番とタイミングで税額が変わるので、退職前に試算しておくべきです。
源泉徴収票が届かない・紛失したときの再発行と電子交付

確定申告の直前になって「源泉徴収票が見当たらない」という相談は毎年あります。再発行は可能です。慌てず手順を踏みましょう。
再発行の依頼手続き
再発行の依頼先は退職した会社の総務・経理です。会社には源泉徴収票を交付する義務があるので、紛失しても再発行を断られることは原則ありません。
もし会社が対応してくれない場合は、所轄の税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を出すという手段があります。
電子交付(マイナポータル連携)での取得方法
会社が電子交付に対応していれば、e-Tax連携やマイナポータルを通じて源泉徴収票のデータを取得できます。確定申告書作成コーナーに自動で取り込めるので入力ミスが減ります。
ただし、すべての会社が電子交付に対応しているわけではありません。まずは会社に交付方法を確認するのが確実です。
よくある質問(FAQ)
相談でよく聞かれる質問を、検証済みの事実をもとに簡潔にまとめます。

よくある質問
最後に一つだけ。退職金の源泉徴収票が届いたら、支払金額×20.42%と源泉徴収税額を見比べてください。一致していたら申告書未提出のサイン。確定申告で取り戻せる可能性が高いので、今年のうちに動きましょう。
