退職金の確定申告は必要?税金の計算方法と還付されるケースを解説

ただし、年の途中で退職した人や医療費控除を使いたい人は、申告すると税金が戻ってくることがあります。私が銀行とFPの現場で相談を受けてきた中でも、ここを知らずに損をしている方は本当に多い。
この記事では、申告が要る・要らないの境目、退職所得控除や1/2課税の仕組み、勤続年数別の税額目安、そして還付を受ける具体的な手順までまとめます。自分のケースを今すぐ確認してください。
退職金に確定申告は必要?まず結論から

退職金(退職所得)は、原則として確定申告が不要です。これは多くの方が見落とすポイントなので、まず大枠を押さえましょう。
鍵になるのが「退職所得の受給に関する申告書」という書類です。これを勤務先に出していれば、会社が正しい税額を計算して源泉徴収してくれます。だから自分で申告し直す必要がない、というわけです。
確定申告が不要なケース
次の条件をすべて満たすなら、退職金について確定申告はいりません。
勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出済みで、源泉徴収が正しく行われていること。これに尽きます。
さらに、退職金の額面が退職所得控除額より少ない場合は、そもそも税金がかかりません(非課税)。控除に収まる金額なら、源泉徴収もゼロです。
確定申告が必要なケース
一方で、次のような場合は確定申告が必要になります。
| 状況 | 理由 |
|---|---|
| 申告書を勤務先に出していない | 税率20.42%で源泉徴収され、精算が必要 |
| 公的年金等の収入が年400万円超 | 確定申告不要制度の対象外 |
| 公的年金以外の所得が年20万円超 | 給与・事業所得などがある場合 |
| 医療費控除や住宅ローン控除を使いたい | 還付を受けるには申告が必要 |
申告書を出していないと、退職金額の20.42%(所得税+復興特別所得税)が一律で源泉徴収されます。本来より多く取られていることが大半なので、申告で取り戻せます。
申告が必要な場合の期限は、退職金を受け取った年の翌年2月16日〜3月15日です。納税期限も同じ3月15日まで。土日祝なら翌平日に繰り越されます。
申告しなかった場合のリスク
正直に言うと、リスクには2方向あります。
ひとつは「払いすぎたまま戻ってこない」リスク。申告書未提出で20.42%引かれたまま放置すれば、本来戻る税金を取り損ねます。これは罰ではないぶん、気づかないと一番もったいない。
もうひとつは、他に申告すべき所得があるのに申告しなかった場合。延滞税や加算税が乗る可能性があります。還付なら焦る必要はありませんが、納付がある人は期限を守ってください。
退職金にかかる税金の仕組みを理解する
なぜ退職金は税金が優遇されるのか。理由は「長年の勤労の対価で、老後の生活資金になるから」です。国もそこに配慮していて、3つの仕組みで負担が軽くなっています。

退職所得は分離課税で計算する
退職所得は、給与や事業所得とは合算せず、分けて税額を計算します。これが分離課税です。
給与と合算すると税率が高い区分に押し上げられてしまう。それを避けるため、退職金は単独で計算する。ここが優遇の入り口です。
退職所得控除とは
退職所得控除は、退職金から差し引ける非課税の枠です。勤続年数が長いほど枠が大きくなります。
この控除額が退職金の額面を上回れば、課税対象はゼロ。つまり税金はかかりません。長く勤めた人ほど有利になる設計です。
1/2課税の仕組み
退職金から控除を引いたあと、さらにその金額を半分にしてから税率をかけます。課税対象額は(退職金−退職所得控除額)×1/2です。
控除と1/2、この二段構えで負担が大きく下がる。同じ金額でも給与でもらうより税金が軽くなる理由がここにあります。
住民税の取り扱いと納付のタイミング
退職金には所得税だけでなく住民税もかかります。ただし住民税も退職所得として分離課税で、退職金を受け取るときに天引きされる仕組みです。
通常の住民税のように翌年6月から後払い、ではありません。退職金については受給時に精算が終わるので、後から請求が来る心配は基本的にありません。
退職金の税額の計算方法と早見表
ここからは実際の計算です。控除額の計算式と、勤続年数別の目安を載せます。自分の数字を当てはめてください。

退職所得控除額の計算式
退職所得控除額は勤続年数で決まります。1年未満の端数は切り上げて1年と数えます。
| 勤続年数 | 計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数−20年) |
たとえば勤続30年なら、800万円+70万円×10年=1,500万円。これが非課税の枠です。退職金が1,500万円以下なら税金はかかりません。
課税退職所得金額と税額の求め方
手順はシンプルです。
(1)退職金から退職所得控除額を引く。(2)その金額を1/2にする(課税退職所得金額)。(3)その金額に所得税の税率をかける。これで所得税額が出ます。
控除内に収まれば、ここまで進むまでもなく税額ゼロ。まずは自分の勤続年数で控除額を出し、退職金と比べるのが最短です。
勤続年数・金額別の税額シミュレーション
勤続年数ごとの控除額の目安をまとめました。退職金がこの金額以下なら非課税、という早見表として使えます。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 5年 | 200万円 |
| 10年 | 400万円 |
| 15年 | 600万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 25年 | 1,150万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
| 35年 | 1,850万円 |
こうして並べると、控除の手厚さが一目で分かります。30年勤めて退職金1,500万円なら、退職所得としての税金はゼロ。多くの会社員はこの枠に収まります。
勤続5年以下の短期退職手当等の1/2課税制限
ここは見落としやすい注意点です。勤続5年以下の場合、1/2課税が制限されることがあります。
控除後の金額が300万円を超える部分については、1/2にできません。役員以外の従業員でも対象です。短期間で高額の退職金を受け取る人は、思ったより税負担が重くなることがあるので要注意。
退職所得の受給に関する申告書の役割と手続き

何度も出てくるこの申告書。退職金の税金を左右する最重要書類です。提出の有無で源泉徴収のされ方がまったく変わります。
申告書を提出した場合と未提出の場合の源泉徴収の違い
提出した場合は、退職所得控除や1/2課税を反映した正しい税額だけが源泉徴収されます。多くの場合、これで課税関係は終わり。
未提出だと、控除を一切考慮せず、退職金額の20.42%が一律で天引きされます。本来より多く取られるので、確定申告での精算がほぼ必須になります。
| 項目 | 提出あり | 提出なし |
|---|---|---|
| 源泉徴収 | 正しい税額を反映 | 一律20.42% |
| 退職所得控除 | 適用される | 計算に反映されない |
| 確定申告 | 原則不要 | 精算のため必要 |
申告書を出し忘れたときの対処法
出し忘れても慌てなくて大丈夫。確定申告で取り戻せます。
翌年の確定申告で退職所得を正しく計算して申告すれば、20.42%で取られすぎた分が還付されます。私が相談を受けるケースでも、これで数十万円戻った例は珍しくありません。源泉徴収票は必ず保管しておいてください。
確定申告で退職金の還付を受けられるケース
申告書をきちんと出していても、確定申告すれば税金が戻ることがあります。代表的なパターンを挙げます。

年の途中で退職した場合
年の途中で退職して再就職していないと、給与の年末調整を受けられません。
すると給与から引かれた所得税が払いすぎのままになりがちです。確定申告すれば、給与分の税金が還付される可能性が高い。退職金そのものというより、給与側で戻るケースですね。
医療費控除・住宅ローン控除と併用する場合
医療費が年10万円を超えた、住宅ローン控除を初めて使う。こうした控除は確定申告で初めて適用されます。
退職した年は所得が下がっていることが多く、控除の効果が出やすい。給与や年金から引かれた税金が戻ってくることがあります。控除があるなら、面倒でも申告する価値は十分あります。
ふるさと納税などその他控除との関係
ふるさと納税のワンストップ特例を使うつもりでも、他の理由で確定申告をするなら、寄附金控除も確定申告にまとめて書く必要があります。
ここは要注意。確定申告するとワンストップ特例は無効になります。寄附した分は申告書に必ず記載してください。書き忘れると控除を取り損ねます。
確定申告の進め方と必要書類
いざ申告となったときの実務です。書類さえそろえば、手続き自体は思っているほど難しくありません。

源泉徴収票など必要な書類
最低限そろえるものは次の通りです。
| 書類 | 入手先・備考 |
|---|---|
| 退職所得の源泉徴収票 | 退職した勤務先から交付 |
| 給与の源泉徴収票 | 年内に勤務した会社から |
| 各種控除の証明書 | 医療費の領収書、ローン残高証明など |
| 本人確認書類・マイナンバー | 申告者本人のもの |
退職金の源泉徴収票は、申告書未提出だった人ほど大事です。これがないと20.42%で取られた分を正しく精算できません。
申告書の記入手順
国税庁の確定申告書等作成コーナーを使うのが一番ラクです。画面の案内に沿って数字を入れるだけで税額が自動計算されます。
退職所得は専用の入力欄があります。源泉徴収票の金額をそのまま転記し、控除があれば該当欄に入力。最後に還付額が表示されます。手書きより間違いが減るので、私は作成コーナーを勧めています。
修正申告が必要になったときの流れ
提出後に間違いに気づいたら、修正できます。
税額が少なすぎた(納め足りない)なら修正申告、多く払っていた(還付が少なすぎた)なら更正の請求です。更正の請求は申告期限から5年以内が目安。気づいた時点で早めに動くほど安全です。
判断に迷いやすいケースの取り扱い

相談現場で質問が集中するのが、この章のテーマです。iDeCoとの重複や複数社からの受給など、例外で不利にならないか確認しておきましょう。
iDeCo・小規模企業共済の一時金との重複調整(5年・19年ルール)
退職金とiDeCoの一時金を別々の年に受け取っても、退職所得控除が満額ダブルで使えるとは限りません。
前に退職所得控除を使った受給があると、一定期間内の重複は控除を調整されます。受け取る順番とタイミングで税額が変わるので、iDeCoや小規模企業共済を持つ人は受給スケジュールを事前に設計してください。ここは独断で動かず、確認をおすすめします。
一時金と年金形式での受け取りの税負担比較
退職金は一時金で受け取るか、年金形式で分割受給するか選べる制度もあります。
一時金は退職所得控除と1/2課税が使える。年金形式は公的年金等控除の対象になるが、雑所得として他の年金と合算され、毎年の課税対象になります。
| 受取方法 | 課税区分 | 主な優遇 |
|---|---|---|
| 一時金 | 退職所得(分離課税) | 退職所得控除・1/2課税 |
| 年金形式 | 雑所得(総合課税) | 公的年金等控除 |
どちらが得かは退職金額と他の年金収入で変わります。控除に収まる金額なら一時金が無難。私は、退職金が控除内に収まる人にはまず一時金を検討してもらいます。
複数の会社から退職金を受け取った場合
同じ年に複数社から退職金を受け取ったら、合算して一つの退職所得として計算します。
勤続年数は重複期間を調整して算定するため、単純に足し算ではありません。この場合は源泉徴収が正しく精算されていないことが多く、確定申告で還付される可能性があります。
死亡退職金・障害退職の特例
本人の死亡後に遺族が受け取る死亡退職金は、所得税ではなく相続税の対象です。退職所得にはなりません。
また、障害が原因で退職した場合は、退職所得控除額に100万円が加算される特例があります。該当する人は控除が増えるので、源泉徴収票の計算を確認してください。
よくある質問(FAQ)
相談現場で実際によく聞かれる質問に、短く答えます。

よくある質問
最後にひとつだけ。退職金の税金で一番もったいないのは「申告すれば戻るお金を、知らずに放置すること」です。源泉徴収票を引っ張り出して、自分の勤続年数で控除額を計算する。まずはそこから始めてください。
