退職金の住民税の計算方法を5ステップで解説|控除と計算例つき

私は元銀行員で、いまはFPとして退職金や年金の税務相談を13年続けています。この記事では、自分の勤続年数と退職金額を当てはめて住民税額を出せるよう、5つのステップに分けて解説します。
勤続15年・30年の計算例、2分の1課税が使えない例外、確定拠出年金との関係、納入期限まで踏み込みます。読み終わる頃には、自分の手取りがいくら減るのか具体的に分かります。
退職金にかかる住民税とは?仕組みをやさしく解説

退職金の住民税は、毎月の給与から引かれる住民税とは仕組みがまったく違います。ここを誤解している方が本当に多い。まず大枠を押さえましょう。
退職金は給与とは別に課税される「分離課税」
退職金は「退職所得」として、給与やボーナスなど他の所得と分けて課税されます。これを分離課税と呼びます。
住民税は本来、前年の所得に対して翌年課税される仕組みです。ところが退職金だけは例外で、受け取った年にその場で課税されます。
つまり「来年まとめて請求が来る」のではなく、退職金から先に天引きされて精算が終わる。これが分離課税の大きな特徴です。
住民税の税率は市民税6%・県民税4%で全国一律
退職所得にかかる住民税率は一律10%です。内訳は市区町村民税6%、都道府県民税4%。
「うちの自治体は税率が高いのでは」と心配される方がいますが、退職所得については全国どこでも同じです。住んでいる場所で損得は出ません。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 市区町村民税 | 6% |
| 都道府県民税 | 4% |
| 合計 | 10% |
退職金の住民税が翌年度の住民税や保険料に影響しない理由
ここは安心材料です。退職金にかかった住民税は、翌年度の住民税や国民健康保険料、社会保険料に影響しません。
理由はシンプルで、分離課税だから。退職所得は他の所得と合算されず、その年に独立して計算・納付が完結します。
「退職金をもらった翌年、住民税や保険料が跳ね上がるのでは」という不安をよく聞きますが、退職所得部分についてはその心配は要りません。
退職金の住民税を計算する5つのステップ
計算は5段階で進みます。退職所得の金額は、原則として『(退職手当等の金額-退職所得控除額)×1/2』で求めます。順番にいきましょう。

ステップ1:退職所得控除額を求める
最初に、勤続年数に応じた退職所得控除額を出します。これが退職金から差し引ける非課税枠です。
| 勤続年数 | 控除額の計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円未満なら80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
勤続年数に1年未満の端数があるときは切り上げます。25年5か月なら26年として計算する。この切り上げで控除額が増えるので、地味に効きます。
ステップ2:退職所得金額(課税対象)を求める
次に課税対象となる退職所得金額を出します。式は『(退職金-退職所得控除額)×1/2』。
この「×1/2」が退職金の税負担を大きく軽くしています。長年の勤労に報いる、という制度の趣旨です。千円未満を切り捨てて扱う自治体もあります。
ステップ3:市民税額を求める
退職所得金額に市区町村民税6%を掛けます。例えば課税退職所得金額が230万円なら、市民税は13万8千円。
ステップ4:県民税額を求める
同じ退職所得金額に都道府県民税4%を掛けます。課税退職所得金額230万円なら県民税は9万2千円です。
ステップ5:特別徴収税額(合計)を求める
市民税と県民税を合わせると、合計10%。課税退職所得金額230万円なら住民税は23万円になります。
最後に100円未満を切り捨てて、退職金から天引きされる特別徴収税額が確定します。
勤続年数別・退職金の住民税計算例
式だけだとピンと来ないので、実際の数字で計算します。自分の状況に近いケースを当てはめてみてください。

ケース1:勤続15年・退職金1,000万円
控除額は40万円×15年=600万円。退職所得金額は(1,000万円-600万円)×1/2=200万円。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職所得控除額 | 600万円 |
| 課税退職所得金額 | 200万円 |
| 市民税(6%) | 12万円 |
| 県民税(4%) | 8万円 |
| 住民税合計 | 20万円 |
1,000万円の退職金に対し、住民税は20万円。思ったより少ない、と感じた方が多いはずです。2分の1課税の効果ですね。
ケース2:勤続30年・退職金2,000万円
控除額は800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円。退職所得金額は(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職所得控除額 | 1,500万円 |
| 課税退職所得金額 | 250万円 |
| 市民税(6%) | 15万円 |
| 県民税(4%) | 10万円 |
| 住民税合計 | 25万円 |
2,000万円もらっても住民税は25万円。長く勤めるほど控除額が厚くなるので、勤続年数が税負担を大きく左右します。
障害者になったことによる退職は控除額が100万円加算
病気やケガで障害者となり、それが原因で退職した場合は、退職所得控除額に100万円が加算されます。
ケース1の人がこれに該当すれば、控除は600万円ではなく700万円。課税対象が減り、住民税も下がります。該当しそうな方は勤務先に申し出てください。
2分の1課税が使えないケースに注意

ここが一番つまずきやすい落とし穴です。令和4年1月1日以降に支払われる退職手当等では、一定の場合に「2分の1課税」が使えません。
役員等で勤続5年以下(特定役員退職手当等)の扱い
役員等として勤続5年以下で受け取る退職金は、特定役員退職手当等として2分の1課税が一切適用されません。
つまり『(退職金-控除額)×1/2』の1/2が消えます。課税対象がまるごと2倍になるイメージで、税負担はかなり重くなります。
一般従業員で勤続5年以下・300万円超部分の扱い
役員等以外でも、勤続5年以下の場合は注意が必要です。退職金から控除額を引いた残りのうち、300万円を超える部分には2分の1課税が使えません。
300万円までの部分は従来どおり1/2が使えます。短期間で多額の退職金を受け取る転職組は、ここを見落としがちです。
「退職所得の受給に関する申告書」を出さないとどうなるか
この申告書を勤務先へ提出していれば、退職所得控除や2分の1課税が適用された正しい税額で精算されます。
提出を忘れると、所得税は退職金全額に20.42%が源泉徴収されます。控除も2分の1も効かない。後で確定申告すれば取り戻せますが、手間が増えます。
正直、これは出し忘れるとかなり損をします。退職時に必ず提出してください。住民税側は特別徴収で処理されますが、所得税の差が大きい。
複数の退職金・確定拠出年金がある場合の調整ルール
退職金を複数受け取る人、iDeCoや企業型DCを一時金で受け取る人は、勤続年数や控除の通算ルールに注意が必要です。

同一年や前年以前に複数受け取った場合の勤続年数の通算
同じ年に2か所から退職金をもらう場合、勤続年数の重複部分は調整され、控除額を二重取りできない仕組みになっています。
前年以前に別の退職金を受け取っているときも、勤続期間が重なる分は通算されます。控除をそれぞれ満額で計算すると過大になるので注意してください。
確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)一時金との退職所得控除の関係
iDeCoや企業型DCを一時金で受け取ると、これも退職所得として扱われます。会社の退職金と勤続期間が重なれば、退職所得控除は共通の枠を使う形になります。
私の相談現場では、退職金とDC一時金を同じ年に受け取って『控除が思ったより使えなかった』というケースが少なくありません。受取時期をずらすと結果が変わることもあります。具体的な通算可否は、必ず勤務先と税務署で確認してください。
一時金で受け取る場合と年金形式で受け取る場合の住民税の違い
退職金を一時金で受け取れば退職所得になり、ここまで説明した分離課税・2分の1課税・退職所得控除が使えます。
一方、年金形式で分割して受け取ると、それは雑所得として毎年の総合課税に入ります。住民税も他の所得と合算され、翌年度の保険料計算にも影響します。
どちらが有利かは退職所得控除の枠や他の所得しだいで、一概には言えません。私の感覚では、控除枠に余裕がある人は一時金、長く分散して受け取りたい人は年金形式、と分かれます。迷ったら試算してから決めましょう。
退職金の住民税の納め方と期限
退職金の住民税は、自分で納付書を書く必要はありません。勤務先が計算して天引きします。とはいえ仕組みを知っておくと安心です。

特別徴収(給与天引き)の流れ
住民税は退職金の支払者が計算し、退職金から差し引く特別徴収で納付します。納付先は、退職した年の1月1日現在の住所地の市区町村です。
つまり受け取る側の手続きは、ほぼ申告書の提出だけ。残りは勤務先が処理してくれます。
納入期限は退職日の翌月10日まで・延滞のリスク
特別徴収した住民税は、原則として退職した月の翌月10日までに市区町村へ納入します。
これは納める側、つまり勤務先の義務です。期限を過ぎると延滞金が発生するため、経理担当者は早めの納入を心がけてください。受け取る本人がこの期限で焦る必要はありません。
納入書・ネットバンキング・エルタックスでの納入方法
勤務先が納入する手段は主に3つあります。窓口で使う納入書、銀行のネットバンキング、そして地方税共通納税システムのエルタックスです。
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| 納入書 | 金融機関や役所の窓口で納付。紙ベース |
| ネットバンキング | 各銀行の納入サービスでオンライン納付 |
| エルタックス | 地方税共通納税システムで電子納付 |
退職金と確定申告・他の控除の関係

基本的に退職金は天引きで精算が終わります。ただ、確定申告で税金が戻るケースもある。ここは知らないと損です。
天引き後に確定申告が必要なケースと還付の可能性
申告書を出していれば原則として確定申告は不要です。ただし出し忘れて所得税が20.42%源泉された場合は、申告すれば差額が還付されます。
また、年の途中で退職して他の所得が少ない人は、所得控除を使い切れていないことがあります。退職所得を申告に含めることで還付が出るケースもあるので、源泉徴収票を確認してください。
ふるさと納税や住宅ローン控除と退職所得の関係
退職所得は分離課税なので、ふるさと納税の控除上限の計算では原則として給与など他の所得を基準に考えます。退職所得をあてにして上限を増やしすぎると、自己負担が膨らむことがあります。
住宅ローン控除は所得税・住民税から差し引く仕組みですが、退職所得分の住民税は控除対象になりません。ここを混同して『退職金の住民税もローン控除で消える』と誤解しないでください。
死亡退職金を遺族が受け取る場合の課税(住民税は非課税)
本人が亡くなり、遺族が死亡退職金を受け取る場合は、退職所得ではなく相続税の対象になります。
このとき住民税はかかりません。生前に受け取る退職金とは課税の枠組みがまったく違う、という点だけ押さえておいてください。
退職金の住民税に関するよくある質問
相談現場で特によく聞かれる質問を、短く答えます。

よくある質問
最後に一言。退職金の住民税で一番もったいないのは、申告書の出し忘れです。手続きの中でこれだけは絶対に落とさないでください。自分の勤続年数と退職金額を、今日のうちにこの式へ当てはめておきましょう。
